第2話 謎の二人
「お待たせしました〜〜!」
給仕係が大きなおぼんに四人分の食事を乗せて、愛想の良い声で言った。ハクとヤマトの前に、木製のどんぶりによそわれた牛丼が、大皿にちまきときな粉が分けられて、机の中心に置かれる。笹の葉に巻かれたちまきからも、大盛りの牛丼からも湯気が立ち、空いた腹に直接訴えかけるように食欲が掻き立てられた。
「食べよう」
フユキがそう言ってちまきに手を伸ばすと、ヤマトは箸を取り、威勢よく一口目をかき込んだ。ハクは外套の襟を下げながら、ほどほどに口を開けて牛丼を食べる。するりとちまきの紐を解くと、フユキはぱくりとかじった。ん、と唸ると、さらに噛んでゆっくり飲み込む。
「美味いな、これ」
表情に『美味しい』を宿しているフユキを見ながら、アヤメも一口目を食べた。たしかに、美味しいかもしれない、とアヤメの思考は動く。
「アヤメ、かじったちまきをきな粉につけても大丈夫?」
「え、あ、はい、気にしないです」
じゃあ遠慮なく、と、フユキはちまきできな粉の山を崩す。
つゆだくな牛丼をすでに半分かき込んでいるヤマトは、ちまきに一切見向きもしない。アヤメはぼーーっと向かいのフユキを眺めながら咀嚼していた。
(この人達、いったい歳はいくつなのだろう……?)
その食事の仕方には、どこか品がある。中にはくだけた仕草も見られるのに、奥には丁寧さが隠れているように思えた。
「ハクもちまき食べてみなよ」
「ん」
ずい、と差し出されたちまきに顔を向けると、フユキが差し出したそれをかぷりとかじった。
「牛丼ちょうだい」
今度は無言でどんぶりをフユキに寄せる。
(この人達は、一体……)
アヤメは眉毛を寄せて小首を傾げた。二人からは近すぎない自然な距離感なのに、訳が分からないくらい息があっているんじゃないか? と、謎の違和感を覚える。何故そう感じるのかは、自分でもよくわからなかった。
「ん、おいしい」
牛丼を一口口に運び、ゆっくり咀嚼しながらフユキはつぶやく。
「……ちまきもうまい」
「な」
二人よく嚙みながら味わっている姿が印象的だった。
◆
依頼を取り付け、食事を終えた一行は、その集落唯一の小さな露店商通りを歩いていた。先頭をゆっくり歩くフユキのあとを、ハク、ヤマト、アヤメはついて行く。その露天商はいろどりは少なく、渋く落ち着いた見た目ではあったが、威勢のいい掛け声が人の活気を教えてくれる。そんなにぎやかな通りを歩いていたフユキは、ふいに路地裏に道を折れた。当たり前のようにハクはついて行くが、ヤマトとアヤメはどこに行くんだ? と不思議に思いながら、困惑気味について行く。表の通りから曲がり、さらに細い道を曲がって行くと、人気のない路地裏に10あるかないかの歳ほどの子供が二人、軒先に座り込んでいる手前でフユキは足を止めた。年が上であろう男の子が顔を上げると、パッと笑顔を輝かせた。年下であろう隣の女の子も嬉しそうに寄ってくる。
「フユキ!」
「また会えたな。頼みたいことがある」
わずかに笑ってみせると、唐突にフユキが子供に言うので、えっ、とヤマトは声を上げた。そんなことも気に留めずに、フユキは続ける。
「10日分の日持ちする食料、大判の油紙4枚、旅用の羽織、長持ちするようなものだ。高くても構わない。代金はこの人からもらってくれ」
ツラツラと告げたあと、ヤマトをチラリと見る。ヤマトは慌てて代金を用意した。袋にお金を移している様を見ていたフユキは、子供の手に渡るのを見届けると、
「余ったら依頼費としな。受け取りは前と同じく西の桟橋の下で。頼んだ」
二人は笑顔で頷くと、男の子の方が「行こう」と女の子に促し、駆け足で通りに出ていく。
「ハクもまたね!」
去り際に女の子が言うのを、ハクは見返して返事をした。
「さっきの二人は……?」
ヤマトが控えめに聞くと、フユキは露天商通りをツカツカ戻りながら答えた。
「大丈夫、あの二人なら上手く買い出ししてくれる」
「買い出しなら俺達で良かったんじゃ……」
チラ、とフユキは目線だけヤマトに向けた。
「あまり痕跡を残したくないだろう?」
そこまでしなくても……という言葉をヤマトは飲み込んで、困惑気味にアヤメと視線を合わせた。
摩那斯の武神 竜崎 @tatuzaki
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