そんなこと、周子ちゃんを見ていれば分かることだろうに。だって、周子ちゃんはいつも明るくて、やさしい。そこまで考えた私はふと、周子ちゃんのママは、あまり上手くやれなかったのかもしれない、と思い到った。こんなにきれいで、なにもかもに満ち足りた様子に見えるけれど、昔、それとも今もかもしれないけれど、周子ちゃんのママは、あまり上手くやれなかったのかもしれない。こんなにきれいだと、もしかしたら、普通のひとよりも、上手くやるのはずっと難しいのかもしれない。

 「そろそろ周子、帰って来ると思うわ。」

 二杯目の紅茶を飲み終えた頃、周子ちゃんのママが微笑んで言った。私はそれを聞いて咄嗟に、やわらかいソファから立ち上がっていた。

 「私、もう帰らないと。」

 唐突な言葉だったのに、周子ちゃんのママは驚いた様子も見せなかった。ただ、静かに微笑んだまま、そう、と囁くように言った。

 「残念ね。周子、きっとがっかりするわ。」

 「だから……だから、周子ちゃんには、私が来たこと、言わないでもらえませんか。」

 なにが、だから、なのかよく分からない台詞を吐く私に、周子ちゃんのママは、いぶかしげな顔をすることもなく、表情をまるで変えず、ええ、いいわ、と頷いた。

 周子ちゃんに、ここに来たことを知られたくなかった。周子ちゃんには、私がここに来た理由がばれてしまうのではないかと怖かった。私が自分自身で直視することすらできていない、理由が。

 「……また来てもいいですか?」

 声が、少し掠れた。娘の友達だから、来ないで、と直接には言われないにしても、これからは事前に連絡をしてね、とか、周子がいるときにね、とか、そんなふうに言われる可能性だってもちろん十分あって、私はそう言われることに、耐えられそうになかった。

 周子ちゃんのママは、けれどそんなことは言わないでくれて、ええ。いつでも、とだけ言ってから、私を門の前まで見送ってくれた。

 「上着を貸しましょうか?」

 周子ちゃんのママが、すんなりと長い首で私の顔を覗き込み、私は身体を硬くしながら首を横に振った。周子ちゃんのママの上着。それを着て帰り、私の部屋に少しの間置いておける。それは甘美な響きではあったけれど、わずかでも、周子ちゃんに私の訪れが漏れるような危険を冒したくなかった。

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