アヒルとウズラ①

 小さい頃アヒルを飼っていた。と誰かに話す度に驚かれる。

当時私が住んでいたのは鎌倉駅の2つ隣、観音様でお馴染みの大船である。

と言うとさらに驚かれる。

当時の家は隣が駐車場、裏は松竹の鎌倉撮影所のロケ用の建物という、住宅街のど真ん中という訳でも無かったため出来た事だった。

その縁側に面した柿の木のあるちょっとした庭でアヒルを飼っていたのだ。


 アヒルのヒナは誰かから貰ってきたとか特別なルートで来た物でも無かった、大船駅の商店街のペットショップ普通に売られていたのを見つけておばあちゃんが買ってくれたのだ。

ガチャと名付けられたアヒルは刷り込みの効果で人間の後ろをついて歩く様になり、特に父は大喜びして大層可愛がった、アヒルだけはまた飼いたいペットだと繰り返し言うぐらいだった。


 大きくなってくると、日曜大工でも何でもござれな母が木製で金網がついてがっしりした鍵付きの小屋を作って夜はそこで過ごす様になった。当時の家は裏手との仕切りもそこまでしっかりしてはいなかったし、道路に面している玄関も門があっただけ、アヒルがその気になれば簡単に逃げられる環境だったが、可愛がられ甘やかされた生活に不満が無かったガチャは逃げる事も無かった。


 勿論庭に池なんかなかったのでほとんど陸で生活する陸生アヒルだった。が、夏になると子供用のプールを二つ並べて一緒に遊んだ。

 ガチャの餌はキャベツやにんじんなどの野菜と米糠を混ぜた物だった、ガチャが撒き散らした米糠が肥料になり、そのお陰で柿の木につく柿はとてもとても甘くなった。


 ある日の夜中、ガチャ騒ぐ声が聞こえたと大人たちが外に出てついていってみると、ガチャの姿が無かった。

次の日の朝、ガチャは隣の駐車場で見つかった。お腹の中身がすっかりなくなった姿で。

夕方ガチャ小屋に入れた時に鍵をかけ忘れたのではないかと言われているが実際のところはわからない。

当時の大船はまだ、野犬や野良猫、その他の動物が出る環境だったのだ。

自然溢れる鎌倉市内だ、当然と言えば当然である。


あまり見るなと言われながら見せて貰ったガチャの白い羽の中から抉れて赤い肉が見えた最期の姿はまだ覚えている。

ガチャはその姿で自然界の弱肉強食がしっかり教えてくれたのだ。



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