第2話 受験生
第一章
僕と小山さんはあの卒業式の後も変わらずに過ごしていた。僕は志望校の暁高校に合格し、中学生の小山さんとは物理的な距離ができたが、小山さんが中学2年生の夏頃から僕の高校を志望校に定め、彼女から受験に向けて勉強を教えてほしいと頼まれた。僕の受験を支えてくれたのはまぎれもなく彼女だ。二つ返事で了承し、放課後に市立図書館でいっしょに勉強をするようになったため、二人で一緒に過ごす時間は中学生時代よりもむしろ増えていた。
「先輩、ここの公式、前使ったのと同じでいいんですか?」小山さんは少し困った顔をしながら言う。
「ああ、そうだね。少し応用しなきゃだね」僕は少し照れながら問題を解いてみせる。もういい加減慣れてもいい頃だと自分でも思うが、いまだに至近距離で話しかけられると緊張する。
僕たちの関係は僕のどうしようもない性格により、決定的な言葉を交わさずにここまで続いていた。それでもお互い恋人同士として振る舞ってはいて、周りにも認知され始めていた。
小山さんからは「さち」と呼んでほしいと言われていたが「さちさん」と呼ぶのが精いっぱいだった。彼女はふくれていたが彼女も僕のことをいまだに「先輩」と呼ぶのでお互い様だと思っていた。
彼女の学力は中の上くらい。少しがんばれば僕の高校に手が届く。得意な分野と苦手な分野がはっきりしており、頭は良いが理解に時間がかかるタイプだと思った。僕は彼女の苦手な数学、物理を中心に基礎から丁寧に教えることを心がけていた。
この勉強会のかいもあってか、冬になるころには彼女の学力は順調に伸びており、模試の結果では彼女の第一志望である僕のいる高校はA判定となっていた。
「このままがんばれば、先輩と同じ高校にいけますね!」と言いながら満面の笑みを湛える彼女の、また少し大人になった横顔を見ながら、同じ学校でいっしょに登下校する未来を想像して、また赤くなってしまった。
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