逆さまの墓参り

JACKPOT031

逆さまの墓参り

墓地の入口で靴を脱いだ。

あちらの領域に入るのだ。

土足で上がるのは失礼だろう。


墓地に入ると、地面が上になった。

こちらとはところどころ、勝手が違う。


逆さまの草花が頭上に揺れている。

重力が曖昧なまま、ぼくは歩き出した。


墓石は地面からふわりと離れ、空を漂い

名前はそのそばを、まるで魚のように泳いでいる。


少し進んだところで、見覚えのある名前が

視界を横切った。

その名前は真新しい花に囲まれた墓石のまわりを

ゆっくり泳いでいた。


今年も来たよ。

相変わらず君は愛されているようだね。


墓石にそう伝えた。


どんな姿だったかは思い出せない。

だけど、ぼくが小さいときに

一緒にいろんなところへ行き、いろんな話をし

よく遊んでくれた。


その内容をはっきりとは覚えていないけど

かけがえのない思い出には違いなかった。


きっと同じような思い出を

たくさんの人とともにつくったのだろう。

花の数、みずみずしさ、それらが物語っている。


また来年。


そう告げるころ、太陽は山に隠れ始めた。

天地が逆さまになっても、時間は戻らない。

ただただ進む。


日が暮れる前に家に帰ろう。


そういえば、いつもそう思っていたな。


姿もわからない旧い友。


忘れることは、どうやら難しいようだ。

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