第32話 寝落ちしたら神になってた件

【RankLive配信】

視聴者:624人/コメント欄:宿泊先レポ

[カメラ:ドローン自動追尾/常時配信ON]


 宿の部屋に入った瞬間、体の力が抜けた。

 靴を脱いで、ベッドの端にそのまま座り込む。

 昼間の馬車事故、ギルド登録、そしてまさかの聖女からの呼び出し。

 体も頭も、もう限界。


「……やばい、疲れた。

 今日一日、密度高すぎでしょ」


【コメント】

「おつかれー!」

「凡神、生きて帰還w」

「馬車炎上→聖女から召喚される流れ、凡人にしては濃すぎる」

「#地味にハードモード」


「いやほんとに。

 旅ってこんなに体力使うもんだったっけ?

 ていうか、聖女って呼び出すタイプなの?」


【コメント】

「光の導きは直接召喚されるシステムです」

「お呼び立て=選ばれし者!」

「#凡神に光を」


「いや、選ばれたくないんだけど……」


 頭を抱えてベッドに倒れ込む。

 天井の模様が、ほんのり光っている。

 寝具も壁も真っ白。

 全部が清めみたいで落ち着かない。


(もうこれ、宗教ホテルだろ……)


 RankLive端末の画面をのぞくと、トレンド欄には金色の文字が並んでいた。


【#光の導き 聖女イリス=ノアール】

【同接:42,000/ランキング:9位】


「……あ、そういえば。

 この人、ランキング9位なんだっけ」


 説法ログを再生すると、まるで司会付きウェビナーみたいに整った進行。

 背景は金色、コメントは信者の絵文字で埋まり、

 途中で投げ銭の通知が滝のように流れていた。


「光を疑う者に、闇が寄るのです」

「怒りは、私に委ねて。浄化します──」


(……これ、やばくない?)

(委ねてってつまり投げ銭してだよな)


「なんかやばい気配しかない」


 ログを閉じようとしたとき、端末が震えた。


【コメント】

「凡神より格上w」

「光の人やばいよ、信者がマジで祈る」

「#凡神vs聖女 開幕間近」


「いや、まさかコラボとかないでしょ」


(てか、謹んでご遠慮したい)


 カメラのランプが赤く点滅している。

 オフにしようと思って手を伸ばした瞬間、

 コメント欄の一行が目に入った。


【コメント】

「今夜20時、凡神が神殿入りってイリスのチャンネルに告知出てるぞ」

「コラボ確定!?w」

「凡神の地味オーラで光属性バグりそう」

「信者界隈、もうお祭り状態だぞ」

「凡神、逃げて!!」


「……え、確かに呼び出されたけど……マジで?」


 その瞬間、背中の毛がぞくりと逆立った。

 胸の奥がひゅっと冷える。

 空気が一拍、止まった気がした。


(……なんか、やな予感しかしない)


【コメント】

「光の公式に載ってるw」

「#光と凡神の邂逅 トレンド入りおめ」

「凡神、逃げても映る説」


(……終わった)


 天井を仰ぐ。

 金の模様がやけに眩しく見えた。


「……もう寝たい」


 RankLive端末を伏せようとしたあたりで、

 まぶたが勝手に重くなった。

 さっきまで冷たかった指先が、今度は妙に温かい。

 遠くでドローンの羽音がかすかに響いて──


 ……意識が、ふっと途切れた。


***


 朝。


 目を開けた瞬間、脳が一瞬で覚醒した。

 光が差し込む部屋。RankLive端末の通知ランプが点滅している。


(え、朝?)

(……やばい)

(まさか、寝落ちした?)


 端末を手に取った瞬間、心臓が止まりかけた。

 画面いっぱいの金色。

 コメント欄はスクロールが追いつかない。


【コメント】

「凡神、奇跡の寝落ちコラボ回ww」

「寝顔が光に包まれた瞬間、イリス様が導かれた発言!」

「公式が切り抜き出してるw」

「#光の導き トレンド2位おめ!」


(…………は?)

(寝てただけなんだけど!?)


「え、ちょっと待って? 何があった!?」


【コメント】

「イリス様が光が凡神に降りたって言った瞬間、寝顔配信に光差したんだよw」

「神殿の鐘も鳴ったし、奇跡認定されてる」

「信者4万人が祈ってた」

「今じゃ寝落ちは信仰ってタグできてるぞ」

「お前、寝てただけで宗教できた」


「……はい????」


(……俺、寝てただけで神格化されたの?)

(意味わからないけど、とりあえずよかった)


 ──ピコン。


 端末が震えた。

 画面に、通知アイコンが浮かぶ。


【聖女イリス=ノアール】

「おはようございます。昨夜の奇跡、感動しました。

 正式に導きの再現を撮影させていただきますね。

 今度こそ確実にいらしてくださいね」


 最後に絵文字。

 一見、丁寧な文面だった。

 けれど読み返すほど、語尾の柔らかさの裏に、妙な圧を感じた。


(……いや、これ怒ってない?)

(導きの再現って、なに?)


***


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