第28話 強くなりたいと思った瞬間──聖女とかいうバケモノが絡んでくる未来が始まった

「屋台を燃やした犯人だ。煽神エグゼのファンだった。

 凡神アンチをやりたかったらしい」


 レイナ隊長が淡々と告げる。

 喜びも怒りもなく、ただ報告として告げる。

 それなのに、言葉の一つ一つが重かった。


 ミーナが小さく息を呑む。

「そ、そんな……」


 俺はしばらく黙っていた。

 胸の奥に、熱と冷たさが入り混じる。


「……会わせてもらえますか」


 レイナは一瞬だけまぶたを動かし、すぐに頷いた。

「広場だ。ついてこい」


 ギルドの中を抜け、外の光へ。

 午後の陽射しがまぶしくて、少しだけ目を細めた。

 広場の中央には、鎖につながれた一人の青年。

 その周囲に、ざわめく村人と、RankLiveの自動カメラ。


【コメント】

「犯人ガチで捕まってる……」

「凡神、現場行くの!?」

「レイナ隊長こえぇ」

「この温度差よ」


 青年は俯いたまま、唇を噛んでいた。


「……俺は、正義のつもりだったんだ。

 草入りクッキーなんて、不良品を売るとか……良くないと思って……」


 その言葉に、胸の奥が少しだけざらついた。


(……正義、か。そう思ってたのか)

(でも、知らないで叩くのは、いちばんタチが悪い)


 静かに息を吸って、言葉を選ぶ。

「きちんと言っとくけど──あれはリラクサ草だ。

 疲れをやわらげて、眠りを深くする。

 ミーナが、みんなを気遣って入れたんだ」


 ミーナが、そっと頷く。

「……はい。……少しでも、みんなが元気になるようにって」


 青年の目が揺れた。

 何か言いかけて、結局、うつむく。


 俺はほんの少しだけため息をついて、肩の力を抜いた。

「……反省してるなら、もういい。

 でも、屋台の弁償はしてもらう」


 青年が、はっと顔を上げる。

 その表情に、驚きと安堵が混ざっていた。


「……わかった。本当に……すみません」


【コメント】

「凡神、情より実務w」

「でも一番現実的」

「怒らないで筋通すの強すぎる」

「ミーナちゃん天使」

「でも弁償してがじわるw」

「優しさと社会性の両立きた」


 レイナ隊長が無表情で頷く。

「弁償手続きはギルドが行う。以上だ」


 風が吹いて、草の匂いが流れた。

 夕陽の赤が地面を染め、RankLiveカメラのランプが静かに点滅する。


(……まぁ、むかついてたけど)

(もう十分かな)

(一応、一段落ってことで)


***


 ギルドを出たあとの広場は、夕陽に染まっていた。

 戦いの熱気も、怒りも、もう風に溶けていくようだった。

 その空気の中で、レイナ隊長がいつの間にか隣に立っていた。

 姿勢は変わらず、背筋の線が凛としている。


「……今回の件、助かりました」

 自然にそう言葉が出た。

 あの混乱の中、冷静に動けたのは彼女たちのおかげだ。


 レイナ隊長は視線を逸らさず、淡々と答えた。

「礼は要らない。仕事だ」


 その言葉に、思わず小さく笑ってしまう。

 ぶっきらぼうだけど、嫌いじゃない。

 なんだか、いつものギルドの空気が戻ってきた気がした。


「ですよね」

 息を吐いて、少し間を置く。

 けれど、ふと頭をよぎる疑問があった。


「そういえば……あの、幻角獣の魔導刻印。どうなりました?」


 レイナの瞳が、わずかに光を反射した。

 短い沈黙のあと、低く落ち着いた声が返ってくる。

「……わからない。だが――君も注意しておいたほうがいい」


「え?」

 胸の奥がざわつく。

 まだ何か、終わっていないものがある気がした。


 そんな俺を見て、レイナはほんのわずかに表情を緩めた。

「私も配信を見ていた。……よく、頑張ったな」


 そんな風に言ってもらえると思わなかったから、うれしかった。

 だけど――。


「結局、助けてもらって……。

 それでいいって、皆は言ってくれたけど。

 でも……」


 言葉にしようとした瞬間、胸の奥がざわついた。

 今日の光景が、いくつも重なってよみがえる。


 レイナが、静かに問いかけた。


「……もう少し、強くなりたいか?」


 返事がすぐに出なかった。

 でも、心のどこかがはっきりとうなずいた。


「……そうですね」


 レイナは無言で頷く。

 責めるでも励ますでもない、ただ事実を受け止める仕草だった。


(そうか……そろそろ旅立たないと)

(ハーバル村はすごく居心地がよかったけど、このままだと助けられるばかりかも)


 そんな考えがふっと胸をかすめた。

 夕風がひゅうと吹き抜け、広場の空気が少し変わった気がする。


(ほんの少しでいい。前に進みたい)


 そんなふうに思った、このときの俺は──まだ知らなかった。


 聖女とか呼ばれている光飛ばし系インフルエンサーに絡まれて、

 配信では天使スマイル、裏では別人格みたいな声でDMしてくる

 とんでもない怪物に巻き込まれるなんて。


(いや、マジで誰だよ聖女。平穏どこいった)


 未来の俺が嘆くその気持ちなんて、今は想像もできなかった。


***


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その分、ひとつでも心に残る物語を紡げるよう、最後まで全力で書きます。

どうぞよろしくお願いいたします。


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