第26話 自分の煽りで死にそうとか、ばかなの? ……でも助けてやんよ。平凡な俺は、そういう人間だから

 世界が、歪んだ。


 頭上の光輪が爆ぜるように閃き、

 積み上げていた【感情鎮静】の十重の層が、

 轟音とともに、一斉に砕け散った。


 次の瞬間。


 ■■■■ッ!!!


 咆哮が、爆発のように洞窟を裂いた。

 周囲の岩壁が砕け、霧が焼け焦げる。


《【感情鎮静】効果反転》

《対象:狂獣堕王ゼル=バロス

《状態異常【バーサク】強度:前回比 十数倍に上昇》


【コメント】

「なにこれ!? 狂乱モード?」

「鎮静、全部剥がれた??」

「エグゼ、近いぞ!やばい!」


「まずいな。エグゼの煽りスキルで感情鎮静が反転して、バーサクが暴走してる」


 バージルの声が、低く押し殺された。

 動揺はあるが、判断は冷静だ。


 絶叫と同時に、ゼル=バロスの一撃が地面を叩き割った。

 石床が派手に砕け、画面の向こうで砂塵が爆ぜる。


「ぐあっ!」


 粉塵が薄くなると、エグゼの姿が見えた。


 かろうじて横へ跳んで避けたらしいが、跳ね飛んだ瓦礫が顔と肩を直撃したようだ。顔から血を流し、肩を手で押さえ、変な体勢のまま動けずにいる。


「ちょっ……待て、肩……折れ……っ!!」


 痛みに顔を歪めながら、エグゼが後ずさる。

 そのすぐ前で、ゼル=バロスが砂塵を振り払うように首を振った。


 黄金の瞳が、再びエグゼを見据える。


(……まずい。

 完全に標的としてロックされてる)


 ゼル=バロスの爪が、ゆっくりと持ち上がる。

 次は、避けきれない。


 バージルが、無言でこちらを見る。

 「どうする」と問う視線だった。


 俺は一瞬、迷った。


(助けるか?

 感情鎮静をかけ直すか?

 ゼル=バロスにとどめを刺すか?

 ……それとも、見殺しにするのか?)


 胸の奥が熱くなった。


「助ける」


 バージルが短くうなずく。

 あとは任せろと告げる、戦場の仲間の顔だった。


 その先を見届けるより早く、もう地面を蹴っていた。

 加速の高級魔導石を埋めたブーツが爆ぜ、視界が線になって伸びる。


 エグゼがこちらを振り向くより早く、

 俺はその胸を思いきり突き飛ばした。


「うわっ──!」


 エグゼの身体が転がるのと同時に、

 ゼル=バロスの爪が横薙ぎに振り抜かれた。


 風圧だけで頬が切れた。

 あと半歩遅ければ、胴ごと持っていかれていた。


 巨体が追撃の体勢に入ろうとした瞬間、

 鋭い閃光が横から走る。


「そこまでだ、ゼル=バロス!」


 バージルの剣が獣王の腕を弾き、火花が散った。

 衝撃でゼル=バロスの体勢がわずかに崩れる。


 バージルの一閃で、ゼル=バロスの巨体がわずかに傾いた。


「今だ、ユウマ!」


 呼吸が一瞬だけ静止する。

 狙いは──心核ど真ん中。

 だが暴走で軌道が読めない。


(……くそ、揺れるな……!)


 腕が勝手にしなる。

 投げナイフはまっすぐ飛んだが──


 ほんの数センチ、中心を外れた。


 刺さったのは心核のやや下。

 急所とは言えない位置。


(やっぱりクリティカルが出ない)

(でも削れたか……?)


 そう思った瞬間。


 ゼル=バロスの巨躯がびくりと震え、

 黄金の瞳が大きく見開かれた。


 獣王の歩幅ほどの距離で、踏み込みが止まった。


 次の瞬間、膝から崩れ落ちる。


 心核は外した。

 だが、バーサクでむき出しになった魔力の流路を断ち切るには

 十分すぎる位置だったらしい。


 低い咆哮がぶつりと途切れ、

 ゼル=バロスはゆっくりと倒れ込んだ。


(外しても確実に削る──それが【平均化】の確実性だ)


【討伐完了:狂獣堕王ゼル=バロス

【経験値獲得:+10,340】

【連続討伐ボーナス:+4,200】

【レベルアップ:Lv.58 → Lv.60】

【サブスキル解放】

Lv.60 《基本魔法(初期)》──アクティブスキル

平均化補正:成功率・魔力消費・暴発率が常に平均値に収束


【コメント】

「……地味w」

「地味すぎて逆に怖い魔法きた」

「暴発ゼロってプロ魔法使いでも無理なんだが?」

「平凡っていうか、職人だろこれ」

「ユウマの成長イベント、地味なのに盛り上がるの草」


 砂塵が静かに舞い、洞窟の音が戻る。

 横でエグゼが、まだ尻もちのまま震えていた。


「くそっ……なんで、お前みたいな奴に……」


***


カクヨムコン11に参加しています。

読者選考では、皆さまからいただく「★」が大きな力になりますので、応援いただければうれしいです!


転生したら【平凡】スキルで、女神に雑に送り出されたけど、気づいたら異世界トレンド2位になりました(本作)

https://kakuyomu.jp/works/822139838989360870


戦略屋は口だけだと言われたので、ファーム最強だった俺が異世界で魔王軍を再建してやんよ(新作もぜひ!)

https://kakuyomu.jp/works/822139840531473930


その分、ひとつでも心に残る物語を紡げるよう、最後まで全力で書きます。

どうぞよろしくお願いいたします。

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