第6話

 今日はヴァルター兄様と魔法の特訓である。

 この世界では魔法と魔術という言葉がよく使われる。魔法というのは発生した現象を表し、魔術は論理的なことや詠唱や各種学術的要素、また魔法自体も含めて魔術と呼ぶ。


 だから「火の魔法を使う」というのは、正確に表すと「火の魔術を使う」となる。詠唱や構築、魔力の操作があるからね。または「魔術により火の魔法を使う」か。


 ただどうしても魔法という言葉が一般的な常識となっているため、「火の魔法を使う」と言われてしまう。常識も文化だし学問とは多少違っても仕方ないよね。


 ちなみにヴァルター兄様は結構いい性格をしている。悪い方向に。


 今日は兄様が飛ばしてくる小さい水球に何回か当たり、びしょ濡れになるか、兄様に有効打を一撃を当てたら1回終了というゲーム形式だ。

 兄様の攻撃は基本水球のみ、防御手段には制限なし。対して俺はオールフリーのなんでもアリだ。ただ庭まで延焼すると怒られるので、火属性はなるべく無しで破壊力が高いのもダメだ。


「ハハハ、今日は何回ずぶ濡れになるのかな?」

「っ!土壁!」

 容赦なく飛んでくる水球をとりあえず初級魔法だけど、でっかい土壁で防ぎつつ対応策を考える。


 なにせ無詠唱で複数保持して連続掃射してくるのだから、一か所に留まってられないし、こちらからも攻撃しないと始まらない。攻撃の間隙をついて土壁から走り出る。


「アクアランス!」

「水盾」

 中級魔法を同じ中級魔法で相殺される。いや水盾はまだ残ってるから相殺じゃない。

 また水球の掃射が始まったので、無属性の身体強化を使って回避行動に移る。

「無属性魔法ホント得意だよね」

 くっそ余裕だなっ、だけどこれなら!


「風ようなれ、ストーム!」

 短縮詠唱だと、まだ威力の弱い風の上級魔法を広範囲に放ち、ストックされてる水球と水盾を吹き飛ばして、体制を少し崩させる。

 そして無詠唱で兄様の目の前に大きな土壁を生成し、土壁の前に高く飛び上がって、魔法を叩きつける。

「からの~、エアハンマー!!」


 エアハンマーは風の中級魔法なので、無詠唱で作った脆い土壁をどかんっ、と諸共もろとも貫いて兄様を殴り倒す軌道だ。

 ただこんなことでは終わるはずもなく、予想通り光属性の結界魔法を展開して、土礫つちつぶてもエアハンマーもしっかり防いでいた。


 しかし展開を予想できていた私は距離を詰めて「解除!」

 光の結界に無理やり割って入る。

「なっ!」

「これで終わり!」

 さすがに慌てた兄様に拳を叩きこもうとする。

「っ、光盾×2!」

 光のシールドのせいで多少作用点をずらされる形になったが、腰の捻転ねんてんで微調整して、無理やり全力でガガン!と打ち込む。


 「いったーっ!」

 手のひら大サイズへと圧縮生成されたシールドを完全には貫けず、思い切り拳を叩きつけることになった。一枚は割ったがやっぱ二枚は反則だ!


「アクアジェット!、水球×10」

 私は自分が作った土壁の土台部分まで水流で吹き飛ばされ打ち付けられて、水球マシンガンの餌食となった……。


「ごめんごめん、そんなにむくれるなよ。びっくりしてつい本気になっちゃってさ。ほらケガも治したし、服も乾かしてあげただろ?」

「うー、今日こそイケると思ったのに~」

「いやホント危なかったよ。でも魔法の訓練で物理は反則な?」


「あ、そういえば最後のアレ、光盾なんですか?」

「なんですかって、お前も使えるだろ?」

「いやサイズっていうか厚みっていうか異様に硬かったと思うのですけど」

「あーアレ実はコントロールできるんだよ。今んとこ俺のオリジナルだけど。ただ一枚でも素手で割ったのはおかしいけどな。念のため二枚にしといてよかったよ……」

「へー、いいこと聞きました。今度練習してみます」


「うん。でもそっちこそ光の結界を破ったアレ何?初めて見るんだけど」

「光属性の魔力で干渉して闇属性で脆くして亀裂入れて、あとは力技ですかね?」

「あーそりゃ俺には無理だなぁ。五属性あるけど闇は無いもんなー」

「え、兄様、五属性なんですか!?」

「うん。土と闇が使えない。でも光属性が使えるもんだから、学院入学時は結構騒がれたよ」


「あーだから毎回訓練場の土の整地って、私だけがやらされてたんですね」

「まぁ水と光の力技でできないこともないけど、何事も修行修行!」

「はーい……」


 ヴァルター兄様との魔法特訓はとても楽しい。いろんな魔法の使い方が学べる。最後の後片付けがなければ最高なんだけどね……。

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