リーゼ家物語(仮題)

葉月りく

第1話

 まどろみの中にいた。

 まるで二度寝の最中によい夢を見ているような、とても心地良い感覚。そんな夢を見てはまた意識を手放すことを何度も何度も繰り返していた。

 ただそれも突然終わりが来る。あまりの不快感に俺は泣き叫んだ。

 

「お、んぎゅっ、おぎゃあっ、ほぅんぎゃあーっ……」


 自分の泣き声に、ただでさえはっきりしない意識がさらに混濁した。

(なんだ?俺は赤ん坊なのか?なんで?どうして?)

 混乱する気持ちと不快感やいろんなものが混ざり合い、哀しいようなよくわからない感情の波が止まらない。結局俺は泣き疲れるまで泣いて、温かい何かに包まれてそのまま眠ってしまった。


 次に目を覚ましたのは誰かの腕の中だった。寝てしまう前と同じ感触だし、不思議と落ち着くので、きっとこの人が母親なんだろうなぁなんて、ふんわりと思っていた。

 しばらくは意識もはっきりせず、まどろみの中にいたほど快適ではなかったが、寝ては覚めてを繰り返していた。情緒も不安定なので起きては泣くのが止められず、申し訳なく感じてしまう。


 ちなみに授乳は何度もあったけど、もう本能です。おっぱい→吸う→幸せ→寝るという毎回一連の流れ。本能が強すぎて、恥ずかしさやいやらしさなんて全く感じませんでした、はい。


 それからしばらくして、意識もはっきりしてきて目も見えるようになってきたし、耳もよく聞こえるようになってきた。

 いろいろ冷静になって考えてみたところ、まぁいわゆる異世界転生というやつなのだろう。前世の死因はおそらく長期間の長時間労働による過労死。死ぬ直前の記憶や自分の名前も思い出せないので、そういうものなのだろうと早々にあきらめた。


 家族構成は両親と姉が一人。就職活動にあまり一生懸命になれず、テキトーな会社に入ったらブラック企業だったのが運の尽きだったらしい。

 両親には本当に申し訳ないことをしたと思う。姉も別に仲が悪かったわけじゃないし悲しませてはいるのだろう。せめてその分は今世の家族に孝行することで許してもらおうと考え始めていた。


 でだ、ある程度整理も付いたところで問題が一つ……。

 アレが無いのだ。そうアレだよアレ。おちんちんが無いんだよ!

 無いってことはあれでしょ?俗にいう女の子っていうやつでしょ?成人男性から幼女はさすがにきつくね?

 なんでぇーどおしてぇー?転生させた神様とかいるなら半日ほど問い詰めたい。まさか試練?試練とかなんとか言っちゃうの?くそったれ!


 しかしこれには本当に参った。まさか女の子になってしまうなんて。とっても気が動転したし、長いこと落ち込んだけれども、無いものは無いので日が経つにつれてあきらめもついてきた。先のことを考えると思いやられるけどね。人間の適応能力ってすごいなぁ。前世ではこの適応能力のせいで酷い目にあったのだけれども。


 ちなみに俺はどうやらアデルという名前らしい。最初はアディだと思っていたけど、それは愛称で正式にはアデルのようだ。

 なんと侯爵家のご令嬢様である。


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