第2話 恩寵

「おいおいおい」


 俺は恩寵ギフトで出てきたパチンコ台、のような物を見て動揺する。


 え、恩寵ギフトってこんなんなの?嘘だろ……。


 よく見てみると、恩寵ギフトで出てきたパチンコ台はコンセントも繋がっていないというのに、液晶がピカピカと映像を流している。


 ちなみに流れている映像は、ダンジョンの中を模しているのか、洞窟の中を徘徊する魔物達をデフォルメしたものだ。


 もしかしてコレ、遊べ打てる?


「……打つか」


 決して、ギャンブル欲に負けたわけではない。あくまで能力調査だ。そう、調査。


 心の中で誰にするわけでもなく言い訳をしながら、パチンコ台の前に座る。


 座ってから気づいた。


 まて、この台パチンコ玉貸出機サンドユニット無くね?


 本来パチンコはパチンコ玉貸出機サンドユニットにお金を入れて、貸し出しボタンを押して、それでようやくハンドルを捻って球を打つ。


 しかしこの台、どこにもパチンコ玉貸出機サンドユニットが見当たらない。


 これでは球が借りれず打ち出せない。


 クソが、ふざけんなよ、ここまで来てお預けとか許されねえだろ。


 静かに怒りをたぎらせ、台を調べると普通のパチンコ台と明らかに違う箇所があった。


 ハンドルの横、台の中央下段に小さな穴があった。


「何か入れるのか?」


 穴の先は滑り台のように傾斜のある坂となっており、何かを入れる為についているようだ。


「金か?」


 ジャージに入っていた小銭を入れてみる。が、入れた傍から穴から小銭が飛び出してくる。


 どうやら金ではないようだ。


 となると……魔石か?


 魔石を入れると、軽快な電子音と共に画面の端に数字が出る。


「やはり魔石か」


 どうやらこの台は金の代わりに魔石を球に変換して遊技するようだ。


「よし、打つか」


 俺はハンドルを捻り、パチンコ球を弾き出す。


 持ち球は僅か百球、大当たり確立は分からないが、この球数では当てるのは難しいだろう。


 が、この球数で当たるかもしれないというのが、パチンコの良いところなんだよな。


 そんな事を思いながら、打ち始めて数分。


「当たんねえわ」


 当然、当たらなかった。


 っぱこの球数じゃ駄目だわ。もっと打ちてぇ~。


 球の無くなったパチンコ台から顔を上げると、緑の小鬼と目が合った。


「ギャ!?」


「あ」


 ゴブリンはダンジョンでパチンコを打つ男に驚き、俺はいつの間にか近づいていたゴブリンに驚き、両者は混乱により動きを止める。


「…………ふん!」


「ガァッ!」


 先に動いたのは俺だった。


 飛び出すように立ち上がりゴブリンを思いっきり殴った。そのままゴブリンを足蹴にして、灰に変える。


「パチンコ代ゲット」


 俺は魔石を掴んでパチンコに戻った。




「いや、当たんなすぎだろ。確率どうなってんだよ」


 あれから数体のゴブリンを倒して、その全ての魔石を台につぎ込んでいるが、熱い演出も無く一向に当たらない。


 俺は腕に嵌めた古い腕時計を見る。


 既にダンジョンに入ってから二時間近く経過していた。


 体力、気力ともに低下気味である。そろそろ変えることを考えなければならない。


 ……次でラストにするか。


 俺は立ち上がり、、ゴブリンを探す。


 数分の散策でゴブリンは見つかり、手早く処理する。


 初めてにダンジョンだが、ゴブリンを相手にするのはかなり慣れてきた。


 恩寵ギフトだけでなく、精神的な面でもダンジョンに適性を感じる。


 そんな事を考え自惚れながら、ゴブリンから取り出した魔石を台に入れ、球を打ち出す。


 弾いた球が中央下段の球が入ると抽選する所スタートチェッカーに入り、液晶の数字が回り出す。


 と同時に、台が激しく振動する。


 き、来たッッ!!


 今までの経験から分かる。絶対に熱い演出だ。


 俺の予想通り、液晶からも眩い程の光を放ち、数字がテンパイする。テンパイした数字は七だった。


 七テンっ!?


 七、その数字は一般的にラッキーナンバーとされている。パチンコでもその数字は特別で、大抵の台ではテンパイした時点で激熱だ。


 ハンドルを握る手が汗ばむ。


 あ、当たる……!


 爆音と目をつぶってしまいそうな光の中、液晶に目を奪われる。


 脳みその奥が焼けるような熱を持つ。しかし不快では無く、むしろ心地よかった。一生この感覚を味わっていたいと思う程、中毒的だった。


 液晶の中でモンスターと、探索者らしき人物が戦闘を繰り広げる。


 派手な戦闘の末、両者が向かい合い大技を放とうと距離を取る。そして決着を付けようと、大きく飛び跳ねながら激突し───


 ─────ボタンを押せ!!


 ボタンを押した瞬間、虹色の激しい発光とダンジョンに脳みそが溶かすような心地の良い電子音響き渡る。


 あ、あ、あ。


 脳みそから出てはいけないモノが零れ落ちるような、背徳的な快楽が溢れる。


 っぱパチンコって最高だわ!


 にっこり笑顔で液晶を見つめ、右打ちしろ!という指示に従い球を右に飛ばす。


 ……そういや、この台で当たったらどうなるんだ?


 通常、一般的なパチンコ台は当たれば、次は確変抽選を行う。確変とは大当たり確率変動状態で───まあ、分かり易く言うと打ち手に都合の良い状態になるかの抽選を行う。


 のだが、そもそもこの台に確変は搭載されているのか?


 いや、そもそもこの台、当たっているのに球が増えていない。


 球が減ることはないが、大当たりで貰えるはずの報酬、賞球がない。


 ただ、液晶に表示された謎のゲージがゆっくりと溜まっていた。


 謎のゲージが溜まると、魔石を入れた穴から何かが飛び出してきた。


「うおっ!?」


 慌ててそれをキャッチする。


 それは丸い球体だった。半透明で、白く濁った水晶のようだ。


 濁った水晶を握りながら液晶に視線を戻すと、大当たり画面から通常の画面に戻っていた。


 どうやら、この水晶が大当たりの報酬らしい。


 ……金景品何故か換金出来る板では無いのか。いや、恩寵ギフトで出てきた台なんだから当然か。


 なんて馬鹿な事を考えながら手にした水晶を見ると、ぐにゃりと、水晶が歪んでいた。


 っ!?


 いや違う、歪んでいるのではなく、


「なんっ……!?」


 水が布に染みるように、自然と、なんの脈絡もなく体の中に浸透していく水晶。


 反射的に腕を振り回して取り出そうとするが、張り付いた水晶は取れず、その全てが体の中に入っていった。


 ─────『身体能力強化』。


 瞬間、恩寵ギフトを手に入れた時と同じように理解した。


 あの水晶が身体に結果、俺は『身体能力強化』という能力を手に入れた。


 成程、そういう事か。


 恩寵ギフトによる能力、それはパチンコで大当たりを引くと『身体能力強化』のような新たな能力を手に入れる、のようだ。


 今回は『身体能力強化』だが、次に当たる時は別の能力になる。ような気がする。


 よし、帰るか。


 能力もある程度理解でき、ギャンブル欲も満たされ、良い感じに疲労しているので帰る事にする。


 ……台どうしよう。


 洞窟の中に設置された場違いな台を見てそう思うと、スッと台が消えた。


 出したり消したりは俺の意思一つで簡単に行えるのか。


 使い方は即座に理解できても、能力の詳細は実際に使って確かめる必要があるようだ。


 これからもダンジョンに潜るなら、もう少し実験が必要かもしれない。


 今後の事を考えながら、少しだけワクワクと胸を高鳴らせながら帰路についた。


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