演習場には~自衛隊怪談シリーズ~

リラックス夢土

第1話



「和人くんもすっかりうちの中学で有名な怪談師だね」



 僕、檜山ひやま和人かずとは幼馴染で一歳上の鮎見あゆみゆかりちゃんと一緒に学校から帰っている。

 前に駐屯地のイベントに一緒に行ってから、機会があれば一緒に登校したり下校したりしていた。



「なんか気付いたらこうなっているんだよね」


「女の子からも怪談頼まれていたりするみたいだし、けっこうモテるんじゃないの?」


「いや、ただ怪談聴きたいだけだからそんなんじゃないよ」



 たしかに女子からもよく頼まれるけど、そういう関係になんてなれるわけない。

 それに僕は紫ちゃんが好きだし。

 このまま幼馴染からもっと進んだ関係になりたいけど、なかなか踏み出せないでいるんだよね。



「そうなの? だったら人気の怪談師をたまには独占してもいいよね?」


「紫ちゃんならいいよ」



 そう話しているうちに公園の前まで来た。

 ここは幼い頃によく紫ちゃんと遊んだ場所だ。



「せっかくだからここで一つ聴かせてもらえないかな?」


「うん、いいよ」



 紫ちゃんともう少し一緒にいたいと思っていたし、いくらでも聴かせてあげたい。

 僕達は公園に入り、ブランコに座った。



 これに座るのも何年ぶりかな。



「それじゃ、どんなの話そうかな~」


「最近人気の自衛隊怪談聴きたいな」


「いいよ。それじゃ、その中の……あ、トーチカの話にしようか」



 僕は前に父さんの自衛隊時代の先輩である稲田いなださんから聞かせてもらった怪談の一つで演習場にある旧軍遺跡の話をすることにした。



「トーチカ? なにそれ?」


「トーチカというのはね、ロシア語で鉄筋コンクリートでできた防御陣地のことで、隙間から機関銃などを撃ったりするんだ。日本語では特火点とっかてんというらしいよ」


「ああいう感じの物かな?」



 紫ちゃんが指差した先にドーム型の穴の空いた遊具がある。



「似てると言えば似てるかな? 自衛隊の富士の方にある演習場には旧軍が訓練用に使っていたトーチカがあるらしいんだけど……」



 僕の本日の怪談が始まった。





 僕にこの話をしてくれた父さんの先輩、稲田さんから聞いた話なんだけどね。

 その人が父さんのいた部隊に配属になってから二か月後くらいの演習で、その部隊はトーチカのある場所に集まったらしいんだ。

 その時に稲田さんはトーチカが珍しくて外からと中に入っていくつか携帯で写真を撮ったんだって。


 そして、稲田さんより先に入隊した他の部隊にいる友人にそれを送ったんだ。

 そうしたら、少しして返信があって「そこ心霊スポットだぞ? 変なの写っているんじゃないか?」と来たらしいよ。


 それに少し怖くなった稲田さんはすぐにそれを全部消したって言ってた。

 心霊写真になっていたかは確認せずに消したからわからないと言っていたね。


 ああ、そうだなんでそこが曰くつきなのかということなんだけど、詳しい理由は知らないって。

 ただ、旧日本兵の幽霊を見たという目撃例が多くあるみたい。

 訓練中の事故で死んだのか、戦死してここへ戻って来てしまったのかはわからないけど。


 それからしばらくして後輩ができて同じように演習でトーチカのある場所に集まったんだ。

 あれ以来稲田さんはトーチカの中に入ったりすることはしなかったらしいんだけど、そのときに一人の後輩は面白がって入って写真を撮ったり飲み残したペットボトルの飲み物を振りまいたりと随分とふざけていたんだって。


 稲田さんはその人の事嫌っていたから止めたりもせずに冷ややかに見ていたらしいよ。

 そして演習終わって駐屯地に帰った後、その後輩は体調を崩して自衛隊中央病院というところに入院することになってしまったらしいんだ。

 しかも、なんの病気かも原因なども不明だったんだって。


 稲田さんはあの時のトーチカでの行為が原因だと感づいたけど、そのまま放置することにしたらしいよ。

 まあ、僕も自分の嫌いなやつだったら見捨てるね。


 何日かしてその後輩の営内班というものの班長だった陸曹……まあ、下士官だね。そういう人が本人のお見舞い行った後に稲田さんに連絡をしてきたんだ。

 入院したその人が苦しみながらも何かに怯えていたんだって。だからもしかして何かにとりつかれてるんじゃないかって思ったらしい。

 自衛隊って幽霊話とかが多いからけっこうそういうこと信じてる人も普通にいるみたい。


 そして中隊で呪術師として有名だった稲田さんにその人を助けてやってくれとその班長は言ってきたらしいんだ。

 最初は稲田さんも断ったらしいんだけど、頼み込まれて結局助けてあげることにしたんだって。


 次の休日にその陸曹の人と一緒に見舞いに行ったらその後輩は個室に移されていて布団をかぶって震えていてさらに「兵隊が来る……」って何度も繰り返していたから唖然となったと言っていたよ。

 陸曹の人が何度呼びかけてもずっとその状態を繰り返していたんだって。


 さすがにそれを見てあの時の事が原因だと思った稲田さんはその人についてる霊を祓おうとした。

 すると稲田さんを見たその人が訳の分からない叫び声を上げながら襲いかかって来たんだ。

 

 ところが、稲田さんは武術好きでもあっていくつもの流派を経験しているらしくて、襲ってきたその人をとっさに床に叩きつけたんだって。

 そして腕を極めながら押さえつけて、陸曹の人にも協力してもらってひたすら術を使って霊を祓った。

 どんな術かはわからないけど、その人についてた霊を祓うことには成功したみたい。


 後輩の人は正気に戻ったんだけど、自分が体調悪くしたことは覚えていたけど精神がおかしくなっていたことは覚えていなかった。

 そして何日かして退院できたけど、今までのような元気は無くなって自衛隊を辞めてしまったんだってさ。






「旧軍の遺跡って曰くつきなものが多いのかしら?」


「そうかもしれないね。駐屯地も旧軍の時から使っているし」


「そういうところで悪戯したら祟られてもしかたないよね~」


「僕もそう思うよ。僕だったら絶対そんなことしないね。その人のようになりたくないし」


「ところで、そのトーチカのある場所って地図に出てくるの?」



 そういえば場所はまだ見ていなかったな。

 多分検索すれば出て来るかな?

 もしくは誰かがサイトで紹介しているかもしれない。



「僕もまだ見ていないから探してみるね。えっと……地図をっと……あれ?」


「どうしたの?」


「いや、携帯の画面を開いてネット検索しようとしたらその場所がもう表示されてるんだ。検索も何もしていないのに」


「そんな機能あるの?」


「ないよそんなの……」



 僕は怖くなって一度携帯電話の電源を落とした。

 きっと何かバグっておかしな表示が出たに違いない。


 そしてもう一度携帯電話の電源を入れた。

 そこに表示されたものは……




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