死術師アルメ☆リア

イズラ

[第1話]死術師と霊術師

Episode 1-1

 死束アルメしにたばあるめ。ピチピチの17歳。男子高校生だ。

 平日なら、身支度と朝食を終えたら学校に向かう。

 授業が終わればさっさと家に帰る。

 そして、帰れば居間で”有意義な時間”を過ごす。有意義過ぎてあくびが出る時間だ。

 夕飯を食い、風呂に入り、午後九時半に就寝する。

 ──至って、健全な学生である。

 まぁ、イレギュラー二点を除けばの話なんだけど……。

 一、俺は、肉体に「別の意識」を飼っている。そいつの名前は後から言う。

 二、俺は「死術師」である。化け物退治のスペシャリストだ。

 これは、そんな俺の「転校」と「出会い」から始まった、愉快かつ邪悪な世界の話。

 ……どうして、こんなにも後悔することになったのだろう。


      *


 出会いは、死束アルメが扉を開けて、教室に入った瞬間だった。

 なぜか、彼女と最初に目が合った。四十人もいるクラスメイトの内の、たった一人。

 前から二番目、窓側からも二番目の席。

 髪型は、さらさらの黒髪をポニーテールに結び、赤色の綺麗なゴムで止めたもの。

 引き締まった二重。通った鼻筋。

 少し上がった口角が、彼女の”期待”を伺わせていた。

「……世田谷から来ました。死束アルメです。よろしく」

 決して情緒的ではないが、はきはきと喋っている。顔もそこそこ整っており、散らばってそうでまとめっている髪型も、よく似合っていた。


 そして、ホームルーム後の休み時間。

「よろしく!」

 目が合った瞬間、二人同時にそう笑いかけていた。

「……え?」

「……ハ?」

 呆然と見つめ合う二人。──死束アルメと、一人の女子。

「……あー、私、霊堂寺スミカれいどうじすみか

「あー、おう」

 初対面特有の気まずさよりも、さらに気まずい。

 周囲の視線も徐々に集まり始めた。

「……あー、死束って、結構、珍しい苗字だよね」

「そ、そうだな。そーゆう家系でさぁ」

 すると、スミカは「待ってました」と言わんばかりに一歩、彼に踏み込んだ。

「……あー知ってる! 死束家って、有名な死術師の家系だよね~!」

 すると、それを聞いていた周囲が、ざわめきを走らせる。

「え、なに、死術師って”あの”……?」

「マジか……」

「”死束”って、なんかかっけぇもんな……」

 男子を中心に、すでに一目置かれ始めるアルメ。当人はかなり焦って、スミカに詰め寄っていた。

「な、ん、で、そ、れ、を、い、う、ん、だ、よ!!!」

「えぇ!? いや、知ってたからつい言っちゃって……」

 アルメは明らかに敵意の目を向けており、スミカはおどおどとしている。早くも人間関係に亀裂が入りかける中、アルメがフッと息を吐く。

「……それじゃ、意趣返しといこうか」

「……え?」

「霊堂寺スミカ。お前の家、霊堂寺家は、霊術師の名門だろ!」

 次の瞬間、教室が、しんと静まり返った。

 かと思えば、直後、驚愕の悲鳴が上がるのだった。

「え!? スミカ、霊術師だったん!?」

「ヤババ! ちょっとかっこいい!」

「ライセンス見してよー!」

 女子を中心に、とんでもない賞賛を浴びるスミカ。

 もう本当に、驚きと感動が渦まく教室。

「……ずいぶんと盛り上がったな?」

 アルメはニヤリと笑い、顔を赤らめているスミカを見下ろした。

 スミカは「……あんた、まじ?」と掠れた声を吐いた後、「……バカ!!! めっちゃ恥ずかしいじゃん!!!」とアルメに怒りをぶつける。

「へっへへーんだァ!」

 それでも、アルメは一切悪びれない。

 スミカ、彼を見上げながら睨む。すると、アルメも見下しながら目を細めた。

「お前が先だろ……」

「……あー、もういい!!!」

 スミカは彼に背を向けると、さっさと教科書を持って教室を出た。

「……バカバカバカ」

 ──最悪で、最高の出会いだった。

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