第21話 冥王──魂を喰らう王 ③
闇がうねり、光が裂ける。
冥府の大地が悲鳴を上げるかのように、黒い砂が舞い上がった。
刹那、メオルの影が収束し、槍となって迫る。
ただ伸びた“黒”――にもかかわらず、重力すらねじ切る一撃。
逃げ場はない。
「ガルズ!」
「心得た!」
巨獣が咆哮し、腕を交差。
黒い弾丸を受け止める。
だが――
――ズガァァァン!!
衝撃が闘域を貫き、ガルズは大地へ叩きつけられた。
冥府が割れ、魂灯が千切れる。
「……っ!」
強すぎる。
正面から受け止められない。
深紅の大鎌を握りしめ、俺は踏み込む。
「はぁああああッ!!」
紅の斬撃が冥王へ――
「浅い」
メオルの指先が軽く弾く。
その瞬間、刃は霧散し、逆流した衝撃が俺の胸を焼く。
「ぐ、おっ……!!」
肺が潰れ、視界が白く染まる。
肉体より“魂”が痛んでいる。
深く、鋭く、抉られている。
◆
――『苦しい?』
――『怖い?』
――『やめればいいのに』
囁きが、足元から絡む。
過去の声。
弱さの影。
――『どうせ守れない』
――『諦めろ』
――『死ねば楽だ』
「……黙れ」
声が震えた。
けれど、消えない。
メオルがあざ笑う。
「魂とは、欲と恐怖の結晶だ。
特に貴様の魂は――雑味が酷い。
良い素材だ。喰えば、さぞ濃厚だろう」
黒い影が舌を伸ばす。
這い、絡み、俺の魂へ触れようとする。
その瞬間――
――光が奔る。
「っ!? これは……!」
胸奥から溢れる紅い炎。
影を焼き払い、囁きを断つ。
声が響いた。
――《我は在る》
――《主の隣で、剣となり》
――《魂を断つ》
ベルダだ。
(ベルダ……!)
《我は喰らわれぬ。
喰らう〈獣〉は――我らだ》
魂が共鳴し、暴れだしそうな熱を生む。
紅黒が入り混じり、視界を染めた。
◆
「行くぞ、メオル……!」
紅い霧が噴きあがり、身体を覆う。
それは鎧にも羽にも炎にも見える――
魂の形。
メオルの目が僅かに見開かれた。
「なるほど。
魂装を、ここまで……」
そして微笑む。
「美しい――破壊する価値がある」
影が荒れ狂う。
猛獣の牙、死神の鎌、亡者の腕。
何千という殺意が俺へ。
「喰らえ――」
メオルが手を振る。
「
闇が燃えた。
黒炎が薙ぎ払う。
触れれば魂ごと焼き切られる――
圧倒的な死。
「レン!! 退がれッ!!」
ガルズが吠える。
だが――
「退かないッ!!」
俺は飛び込んだ。
深紅の刃を振るう。
「ベルダ――!!」
《任せよ!》
紅黒の大鎌が、黒炎を喰らい――
そのまま引き裂いた。
――ゴォォォォオオオ!!
冥府が鳴動する。
魂灯が激しく揺れ、悲鳴を上げる。
メオルの口元が上がる。
「良い。
ますます欲しくなる……
その魂も、力も――」
瞬間。
影が凝縮し、メオルの手の中で槍となる。
長く、鋭く、ただ“貫く”ための凶器。
黒い地鳴り。
「――来い」
冥王が消えた。
「――っ!」
気づいた時には、目の前。
黒槍が心臓を狙う。
(速い――!)
魂が悲鳴を上げる。
だが、身体は動いた。
ベルダの力が、俺を押し上げる。
――ギィン!!
深紅の刃が、黒槍を受け止める。
火花が散り、空間が裂ける。
「ほう」
刹那、メオルの影から“もう一本”槍が生まれる。
側面から――死角。
(――くる!)
だが、その刃が届く前に――
ガルズが割り込んだ。
「ぐぉおおおおッ!!」
黒い腕が、槍を掴み折る。
魂を焦がしながら。
「門番風情が……」
「風情で結構!!
我が主に指一本触れさせはせぬ!!」
焦げながらも叫ぶガルズ。
その声が、俺の血を燃やした。
「ガルズ!! 一緒にいくぞ!!」
「応ッ!!」
俺の魂と、ガルズの魂が混じる。
炎のように、竜のように、獣のように。
《共鳴率――上昇》
《魂飽和――警告》
(関係ない!!)
「喰らえ――
紅獄・斬魂(クリムゾン・リーパー)!!」
大鎌が弧を描き、冥王へ――
だが、
同時にメオルの影が膨れあがる。
互いの力が衝突し、炸裂した。
――ズドォォォォン!!!
暴風が冥府を抉り、魂灯が千切れて舞う。
叫び、光、闇。
視界が融ける。
その爆音の中――
確かに聞こえた。
――『レン……』
アリスの声。
「アリス……どこだ……!?」
闇の中で、淡い光が揺れる。
小さな灯火。
その奥へ伸ばした手を、
影が掴んだ。
「――ッ!!」
メオルの低い声が囁く。
「もう遅い。
あの魂は、私の“器”に――」
その言葉をかき消すように、
胸が灼けるほど怒りが燃えた。
「まだ終わってないッ!!!」
再び、闇を裂き――
俺は光へ手を伸ばした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます