茜の花嫁

南野うか

プロローグ

 蒸気機関車の汽笛が切り裂く夜明け。

 淡い桃色の着物を翻して少女が大通りを駆けていく。

 一九一二年、日本国改め―――大東妖国だいとうようこく

 文明の光が人々を豊かにする一方、街の至る所に妖が跋扈ばっこしていた。

 奴らとの戦に敗れたこの国は、もはや人の国ではない。

 最後の最後まで国民を護った「退魔師」たちも、今や”年貢泥棒”と揶揄されるにまで落ちぶれた。

 

 そして今宵。

 退魔師の血を引く娘が、妖の棟梁に嫁がされる。

 それはまるで、猛禽が自らの翼を折り、獣の牙にかかるような、妖を祓うことを生業とする退魔師にとっては、類を見ない屈辱であった。


 紅の紗の奥、香の煙が揺れる。

 白無垢を纏った娘が、仇の前に跪いていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る