16 今村ミライ 秘密
「大丈夫かな、アスヤ君」
ミライは草陰に隠れながら、いくら待っても戻ってこないアスヤを心配していた。
「ちょっと探しにいってみるか」
ミライは立ち上がり、草陰から道に出た。
とその時、ちょうど歩いてきた人物とぶつかって、ミライはよろめいた。
「おっと、ごめんなさいね」
「いえ、こちらこそすいません。よく周りを見てなくて」
そう言ってミライは相手を見た。ショートカットの黒い髪の、少し背の高い女性だった。詳しい年齢は分からないが、若そうに見える。
その女性がミライを見て言った。
「ここに居るってことは、あなたもアカシックレコードの当選者?」
ミライは慌てて首を振る。
「いえ、違います。少し用があってここに」
「あらそうなのね、失礼。……うーん、当選者でもないのにここにいるってことは、もしかして何か企んでる?」
ミコトは驚いて心臓を止めかけた。
「ど、どうしてそれを」
女性はその様子を見て笑みをこぼした。
「だって、凄く緊張してるから。当選者じゃないなら、何か企んでるのかなって思ってね」
ミライは身構えた。
「もしかして警備の人ですか?」
女性は心外そうに手を振る。
「違う違う、私は当選者。捕まえたりしないよ! ごめんね、警戒させちゃって。私はカレンというの。よろしくね」
ミライは一安心し、「私はミライです。おっしゃる通り、私はこの会場で、あることを企んでいます」と言った。
「その企んでること、当てていい?」
カレンはニヤリと笑った。
「ズバリ、レコードを操作して何かの情報を非公開にしようとしてるでしょ?」
ミライは再び驚いた。
「せ、正解です。なんで分かったんですか? そもそも、非公開にできるっていうこと自体、なんで知ってるんですか?」
カレンは言った。
「米国のCIAの知り合いがいて、その人から聞いたの。レコードの検索は裏ワザ的な使い方が色々あるって。その中であなたがしそうなことは、非公開にする方法を調べることかなって思ったってだけ」
ミライは目を丸くした。
「へえー、なるほど。というか、非公開以外にも色々裏ワザ的なものがあるんですね」
「そうそう。例えば、『○○(場所)へ転送する方法』と検索すれば、ある座標が出てきて、それを打ち込めばその場所にレコードを転送できるんだって。この方法でレコードは米国からここまで運ばれたらしいよ」
「ああ、それは加古川さ……知り合いから聞きました。そんなこともできるなんて凄いですよね、アカシックレコード」
「凄いのは間違いないけど……抽選に外れた人たちは迷惑だよね。選ばれた百人だけ検索できるなんて、不平等だと思わない?」
ミライは頷いた。
「思います! なので私は会場に侵入して情報を非公開にしようとしてるんです」
カレンも頷き返す。
「私もこの状況は良くないと思うの。もっと平等な世界にしたいと思ってる」
言って、チラリと腕時計に目をやる。
「っと、そろそろ時間だ。じゃあ行ってくるね。これからきっと良いことが起こるから、楽しみにしててね!」
彼女は手を振りながら、会場へと向かっていった。
その姿を見ながら、すごく気の合いそうな人だなとミライは思った。
時間を見るともう一時を回っていた。お腹が空いてきたので、事前に買っておいたあんパンをベンチに座って食べた。
食べ終わると、加古川から着信がかかってきた。
「もしもし、ミライです」
「あっ、ミライさん。良かった、繋がった」
「加古川さん、闇の記者団を止められたそうですね! 良かったです」
ミライは明るい声が聞こえてくるだろうと予想した。
しかし加古川の様子はそれと反対で、むしろ余裕がなく、何やら焦っているようだった。
「ミライさん、大変だ! とんでもないことが起こってる。とにかく自分で見てもらった方が早い。検索エンジンを開いて、何か調べてみてくれ。例えば、誰も知り得ない自分の秘密とか」
ミライは嫌な予感がした。スマホを操作してウェブを開く。検索エンジンに
「今村ミライ 秘密」と打ち込んで検索してみる。
表示された検索結果に、ミライは目を見開いた。
「今村ミライは、村山中学校三年二組の
恐る恐るスクロールしていく。
「今村ミライは家で一人になると即興の創作ダンスを踊っている」
「今村ミライは在本君と良い感じになる自作の恋愛小説を連載している」
恐怖のあまり汗が吹き出て手が震える。
表示されている検索結果は、どれもミライしか知り得ない秘密だ。それが、検索すれば誰でも見ることができる状況になっている。
「恐らく数分前から、世界のすべての検索エンジンがアカシックレコードと接続している。ヤバいぞミライさん。この事実が知られれば世界は数分でひっくり返る」
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