11 恋バナをしよう
ミライは病室にて目覚めた。
ふと横を見ると、加古川とアスヤが並んで眠っている。
視線を自分の腕に移すと、
「起きたかい、ミライさん。良かった」
いつの間にか加古川が起きていた。
「加古川さん、ここは」
「パリの病院だよ。ついさっき日付が変わって、GW七日目だ。大会まであと二日。日本に戻らないとね。もちろんミライさんの体調が良くなってから」
「私は大丈夫です。すぐに戻りましょう」
「いやいや、大事を取った方がいいよ。まだ二日あるんだから。今日も大分無茶をしたんだし」
そう言われ、ミライは乗り出した身を再びベッドに沈み込ませた。
「自分でも驚いてます、あんな無茶をしたこと。目を閉じて耳を塞いで一方的に攻撃されている時、このままやられちゃったら会場にもたどり着けないんじゃないかって思えてきて。早バレも怖かったけど、私はやっぱり
ミライの言葉を聞きながら、加古川は何やら考えている様子だった。
「ミライさん、僕と少し恋バナをしよう」
ミライはぎょっとした。
「えっ、恋バナですか? ……まあいいですけど」
「突然だけど、ミライさんは在本君のどこが好きなんだい?」
ミライは少し考える。
「好きなところですか、そうですね……。在本君はいつも優しいんです。誰に対しても平等に接して、何があっても怒らずに優しく対応する。私は気が短いので、そんな在本君が輝いて見えるんです。私が完璧のふりをしているのは、そういう風になりたいっていう願望もあるんだと思います」
加古川はミライを見たまま頷いた。
「なるほどね。……でも、本来の自分を隠しながら関係性を保つのは苦しくないかい?」
ミライは前を見ながら呟く。
「苦しいです、少し。でも、本当の私がバレて嫌われて、一緒にいられなくなる方がもっと苦しい。だから私はなんとしても秘密を隠蔽します」
「僕は、妻のすぐ怒るところが好きだよ」
「えっ?」
「妻は僕にすぐ怒ってくるんだ。でも僕はそれにとても感謝してる。それは僕や他の誰かを思ってのことだとちゃんと分かるし、彼女なりの理由がしっかりあるからね。まあ、怒らせるとすごく怖いのは間違いないんだけど」
何も言えないミライに、加古川は少し恥ずかし気に言った。
「何が言いたいかというと、何を魅力と感じるかは人それぞれだってことだよ。まあ、在本君が必ずしも本当のミライさんを受け入れてくれるかは分からないから、やっぱり隠蔽した方がいいのかもね」
「うーん、やっぱりそうですよね」
「いっそ告白したらどうだ?」
ミライと加古川は思わず声の主の方を見た。
「起きてたんだ、アスヤ君」
「ちょっと前にな。俺も入れてくれよ、恋バナ」
「いいけど……。私は絶対に告白はしないよ!」
「なんでだよー。すりゃいいじゃん」
「在本君、恋愛は興味ないんだって。この前好きな人いるか聞いたら、いないし恋愛なんてどうでもいい、って。だからできないよ」
それを聞いてアスヤはつまらなさそうな顔をした。
「ふーん、そっか」
ミライはニヤリと笑った。
「そういうアスヤ君はどうなの? 今彼女とかいるの?」
アスヤは顔の前で手を振った。
「いやあ、俺はいないよ。まあ好きな人はいるけど」
「そうなんだ。じゃあ告白しなよー!」
「できないよ、俺ビビりだし」
アスヤはそう言うと下を向いた。
「今日も、早バレを前に何もできなかった。ミライは凄いよ。勇気があるし、行動もできて。かっこいいなって思った。俺もあんな風に行動できたら、彼女できるのかもな。……なあ、恋バナの途中で悪いけど、俺もあんたたちのチームに入れてくれないかな。仲間になりたいんだ」
ミライと加古川は顔をパッと明るくさせた。
「もちろん!」
「ようこそ、アカシックレコード隠蔽工作班へ。歓迎するよ」
三人が固い握手をした後に、加古川は改まって言った。
「アスヤ君も入ったことだし、君たちに言っておかなきゃならないな。僕の密会の詳細について」
ミライは顔をしかめた。
「えっ、言わなくて良いですよ。というか奥さんの好きな所聞いた後に不倫の詳細聞きたくないです!」
「いや、ぜひ聞いてもらいたい」
「いやいいですって! 言われても、私は絶対自分の秘密は言わないですからね」
「おっ、暴露大会か? 修学旅行みたいでいいな。俺も好きな人言っちゃおうかな」
「いやまあそれは気になるけど」
三人はこの後も、薄暗い病室で夜が明けるまで話し続けたのだった。
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