第一章 ―夢の始まり―
朝の光が差し込む教室は、いつもと変わらない日常の音で満ちていた。
窓の外では、カラスが電線に止まり、遠くで野球部の掛け声が響いている。
けれど――勇人(はやと) にとって、その朝はどこか、薄い膜を隔てたような違和感があった。
机に突っ伏したまま、昨夜の夢を思い出す。
黒い霧。這い寄る“何か”。
そして、血のついた白いワンピースの少女――。
(あれは、なんだったんだ……)
夢の感触が、まだ肌の奥にこびりついて離れない。
教室のざわめきが現実感を取り戻させるたび、あの声が耳の奥で蘇る。
――「逃げて……!」
まるで現実の音よりも鮮明に。
「おーい、勇人。聞いてんのか?」
肩を叩かれて顔を上げると、隣の席の陽斗(はると)が苦笑していた。
「また寝不足か? 顔色やばいぞ」
「……ちょっと、変な夢見てさ」
「お前、そういうの多いよな。金縛りとかも」
「いや、今回は……なんか、違った」
勇人は言葉を濁した。説明できない。
夢と呼ぶにはあまりに“生々しすぎた”からだ。
昼休み、校庭のベンチで空を見上げた。
秋の雲が流れていく。その一瞬一瞬が現実なのか夢なのか、曖昧な感覚。
ふと、向こうの校門の方で、白い傘が揺れるのが見えた。
その下に――少女が立っていた。
長い黒髪。薄く笑った唇。
白い傘の影から見えるその瞳は、どこかで見たことがあるような気がした。
(……まさか)
瞬きをした刹那、少女はこちらを見た。
そして、まるで知っているかのように、微かに頷いた。
胸の奥が凍る。
夢の中で見た、あの少女――。
その日、学校に一人の転校生が現れた。
黒板に「神原 澪(かんばら みお)」と書かれた文字が残る。
少女は静かにお辞儀をして言った。
「今日からお世話になります。……よろしくお願いします」
声を聞いた瞬間、勇人の心臓が跳ねた。
間違いない。この声を――昨夜、夢の中で聞いたのだ。
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