第23話 高級な香り、質感の違い

彼は、缶の蓋をゆっくりと開けた。パチン、という静かな音と共に、蓋が持ち上がる。缶の口から漂ってきたのは、あの石油臭いワックスとはまるで違う、甘く、高級な化粧品を思わせる優雅な香りだった。それは、今愛用している高耐久ワックスやホイール用ワックスの香りとも異なり、彼の洗車の儀式を一気に格調高いものへと昇華させるのを感じた。彼は、高揚感を覚えながらワックスの表面に視線を落とす。色は、かつて使った高耐久ワックスよりも明るい色合いだ。その質感をその場で試したくなり、彼はほんの少しだけワックスの表面を撫でる。あくまで撫でるだけだったが、他の二つ(高耐久ワックスやホイール用ワックス)とは明らかに違う、若干の硬さを感じた。彼は、かつて調べたワックスの知識の断片を思い出す。カルナバ蝋は決して新しいものではない。昔から広く使われていた。ただ、このカルナバ蝋100%のワックスの欠点は耐久性で、指で触れるだけでも剥がれてしまうほど脆いという事。そして、カルナバ蝋にあらゆる蝋や果実油脂を配合し、複数の製造工程を経て、扱いやすいワックスへとなることを。「15パーセントの差で、ここまで変わるのか」。そんな無意識に溢れた言葉の後、彼はもう一度、その優雅な香りを深く堪能してから、静かに蓋を閉じた。

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