第二章 噂

翌日、教室でその話をしたら、

隣の席の女子――香澄が顔を曇らせた。

「その名前、知ってる……」

「え?」

香澄は少し考えてから、静かに言った。

「うちの姉が、この学校にいたとき……“旧校舎の事件”の話、してたの。

 夜の校舎で、足音が聞こえるって。

 最後に見つかったのが、その名前だったって。」

俺は笑えなかった。

ただ、フェンスの向こうを思い出していた。

あのときの声。

あれは確かに、呼んでいた。

香澄は続けた。

「……そのあと、旧校舎は取り壊されたんだけどね。

 それから毎年、“誰か”が同じ夢を見るんだって」

「夢?」

「旧校舎を歩く夢。

白い粉が舞って、黒板に何か書かれてるの。

 目が覚めたとき、手にチョークの粉がついてるって。」

彼女の言葉を聞いた瞬間、

俺の心臓が一拍遅れて動いた。

――昨夜、ベッドの横に白い粉が落ちていた。

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