旧校舎の声 ー忘れられた廊下ー

@yuzumalu

第一章 消えた旧校舎

俺がこの高校に入ったとき、

すでに旧校舎は取り壊されていた。

「危ないからって、何年か前に封鎖されたんだよ」

そう先輩が言っていた。

でも、その言い方にどこか“ぼかした感じ”があった。

――まるで、本当の理由を知らないふりをしているような。

校庭の隅、フェンスの奥にその跡地がある。

コンクリートの基礎が一部だけ残り、草が生い茂っていた。

昼間でも、そこだけ空気が違う。

風の音がしない。

蝉の声も届かない。

俺はただ、何気なくフェンス越しに眺めていた。

その時、風に乗って――かすかな声が聞こえた。

「……きこえる?」

びくりと身体が硬直した。

周りに誰もいない。

でも、確かに耳の奥で囁かれた。

思わずフェンスに近づいた瞬間、足元で何かが光った。

小さな銀色のキーホルダー。

YUTA S.

その名前を見たとき、

胸の奥で何かがざらりと動いた気がした。

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