旧校舎の声 ー2人目の足音ー

@yuzumalu

第一章 気づいたのは私だけ

その噂を初めて聞いたのは、

六月の終わり、雨が続いた週のことだった。

「旧校舎の三階に夜行くと、誰かが歩いてる音がするんだって。」

教室でそう言ったのは、クラスの中でいつも明るい木村。

私は笑って聞き流した。

だって、そんなのよくある学校の怪談話だ。

けど、放課後――偶然、私はそれを聞いてしまった。

誰もいない廊下。

雨の音しか聞こえないはずの時間。

コツ……コツ……

足音。

まるで廊下をゆっくりと歩くような。

でも、音のする方向には誰もいなかった。

「……え?」

気のせいかと思って振り返ると、

ちょうどその瞬間、窓ガラスに“人の影”が映った。

――私の後ろに、もうひとり。

振り向いた。

誰もいない。

風も吹いていない。

ただ、窓の向こうで雨粒がゆっくり流れていくのを見ていた。

その夜から、私は寝る前に、必ずあの足音を思い出すようになった。

耳の奥で、静かに――でも確かに――鳴っている。

コツ、コツ、コツ。

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