裁きの泥 外四篇 初版

小松 加籟 official

「収斂した天祐か」

           星々の舞踏する樹木の翳で、徐ろに、憩う少年の過ぎる果樹園の絵画が、しろい壁に加飾されている。風が遊ぶ中で、気が触れた乙女の殉職めいた冷めたい空気が、灌木の幹染みて徐々に剥離して漂っていった。


      朗読役、ピトルメ、言霊の彼、登場。


 朗読役 おぼろ月は、流れゆく暗雲に、びりびりッと、人肌めいた生ヌルい風の清潔過ぎる夜更けは深い秋から、馥郁たる夜気を感じたいが為に、霊妙な露台で、ピースのリトル・シガーを彼女は、喫していた。

 ピトルメ 「さらっさらなあのヘアケア植物油、何処行ったんやろ」

 朗読役 ざらりと、乾いた掌を翳すやら手摺を摑んだ。彼女は、モロに唐突と苦味走った容姿を露わにした。

 プラスチックの皿を微かに焼き切り、吸い殻を捨ててから、昨夜お墓を作った飼い犬を喚びさえしたけれども、歯痛からか、返辞すらも在りはしなくて。

 言霊の彼 「蠱毒の唾液つばきを垂らした半狼ライカンを、どうしたんだ?」

 振動をはじめた端末を手に取り、通話をタップすると開口そう云ってから呼吸をあらげて低く言霊を仄めく彼は、のちに名告った気がした。

 言霊の彼 「私の質問に応えろ、蜜柑が何だって云ってから……この地球上の生き物は、遥かな楽園を拒絶した者ほど、更に択んで、択び抜いた裁きの泥を、かぐわしいブーケと、相俟って、言祝ぐのだよ……彼は真の幸福とは、意識的・無意識的のたゆまぬ人為的努力に因むスピリチュアルな実在性だとは、云わなかった。彼は答えた」


 ――徐かな晴れた天空、偲びない白痴に博愛を赴けば。


 ピトルメ 「さて、ファクタの血泥臭さが、不安な……、えーと、フィジカルは? 5ちゃんねるのどこらですか、それ呼吸してます?」

 言霊の彼 「彼の遺体は、外国から運ばれたとき、誰かが涙した、そうすると、非常に素晴らしい日本人だった……」

 朗読役 変容する屍が、横溢する、そのような設計図が、林立する黒い建築の窓辺に、保管されているとか。

 言霊の彼 「古い生活は、棄てろと云った、憶えてるか? 君は、隠微な差別を可視化し、拭き取り、人間性の枯れないことを祈った、違うか?」

 朗読役 彼女は、ウンベラータとガジュマルと、小さな黒板を飾った玄関から、南向きの化粧室に入り、乳白色の袖まで捲ったが、少し丈、(要するに稍火照った霊肉を冷笑しつつも)頬に触れてみた。

 彼女は、お小水を済ませたら、冷蔵庫から、冷えた、檸檬チューハイを、パチりと空けた。

 ピトルメ 「あのなァ、――明らかな常闇の者共に早や、救いの掌を、徐ろに差し出すとして、その端的な裏切り行為は、一体全体数多在る生命いのちを犠牲の星々へと、蒼き勾玉の光の様な彗星と云う名の容器へ移し換えるんでしょうね。彼らは有耶無耶な近未来にも似た涅槃ではなくて……?」

 言霊の彼 「先ず、整理学的に文脈を考えろよ、ピトルメ。君は既に精神サイコのパンドラの函をひらいた、それは、棺のマナーか何かか?」

 朗読役 ピトルメは、頸を傾げて、片眉をひそめた。軈て、蝶々が羽撃くかの如き、微笑した。

 端末が、掌から、零れた。

 白壁に飾った、安物の蒐集された絵画が、…………ガタタ……ガタタ……と陰鬱に物的シルエットも変じかけた。

 LINEメールが、来た。ピトルメは、そのメールを詠み、澱んではいるけれどもきっぱりと返辞をして、未来地図を脳内に啓いた。

 未来地図には、ほぼほぼ次のように未来が描かれていた。


 金銭上、感覚的に違和感が募るからって、なんで、コンビニエンスストアの簡易灰皿の手前で未練たらしい元恋人がウエディングドレスで、這いつくばる。

 「嗚呼、もうコンクリートの冷たさが、ごつごつしてて、憎しみ合う果てに、大変癪だね」

 と、云ってから、珈琲バニラアイスでも、よしんば喰うに尋ねるとしたって。

 私はコーデュロイのデニムポッケに、……肖像画の外国金貨が、幾枚か入ったブランド物の長財布を、取りだして、コンビニエンスストアの自動ドアをくぐり、先ず飲み物を買って、喉を湿した。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 


 

 

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