せっかく異世界に転生したんだから強くなって断罪予定の義妹を救っちゃってもいいよね!

猫鍋まるい

第1話 今日も妹が可愛い(死

 最近誰かにつけられている気がする。


 妹の美波里みはりにそう相談されたのは一週間前の事。


 これといった証拠もなく確信が持てない美波里は自意識過剰なのかな、なんて言っていたが。


「お兄ちゃん! お兄ちゃん……! 」


 どうやら本当に、妹を狙うヤバイ男がいたらしい。


「みは、り」


 うまく言葉が続かない。


 俺の腹には今、美波里をストーカーしてた野郎の置き土産、折り畳み式のナイフが突き刺さっているからだ。


(美波里の悲鳴を聞いて人が集まってきたな……これなら俺を刺して逃げたアイツも戻ってこれないだろう)


 帰り道が怖いという美波里をバイト先まで迎えに行って正解だった、おかげでこうして美波里を護れたのだから。


「お兄ちゃん、しっかりして! お兄ちゃんっ」


「みはり……」


「お兄ちゃん! 」


「今日も…かわ、い……」








「起きなさい」


「……っ」


「おはよう。 やっと目覚めたみたいね」


「みはり……? 」


「……? 何を寝ぼけているの、ユリウス兄様」


「ユリウス、兄様? 」


「いいえ、本当はこう呼ぶべきね。 ユリウス兄様を騙る悪魔さん」


 長く艶のある銀色の髪、曇り空のようなブルーグレーの瞳。


 押し黙る俺に鋭い視線を向ける彼女の顔は、どこか見覚えがあった。


「いつまでそうして口を閉ざしているつもり? 」


 状況が呑み込めず固まっていると、目の前の少女は少し苛立った様子で蒼い宝石があしらわれたブローチに手を当てた。


「それとも、私を試しているのかしら」


 ぶわっ、と風もないのに少女の髪が靡くと。


 空中にいくつもの魔法陣が浮かび上がった。


(まて、魔法陣? 俺は一体なにを――)


「いいわ、それなら。 私が逆に試してあげる」


 嫌な予感がする。


「待て、レティシア」


「兄様のふりをしないで!! 」


 自らの意思に反し、口を突いて出た彼女の名前。


 それを聞き激昂したレティシアは、魔法陣を俺に向けると氷でできた無数の針を撃ち放った。


「やめろレティシア」


 人の身を容易く貫きそうな氷針は、俺の拒絶の意思により全て砕け散った。


 不思議と恐怖はなく、まるで自分がこうする事が出来るとはじめから知っているかのようだった。


「こんなことをしても俺を傷つけられない」


「そのようね、流石太古の悪魔といったところかしら」


「太古の、なに? 」


「とぼけるのはやめて。 死んだ兄様を基に貴方を喚び出したのは私よ。 だからもう、これ以上兄様のふりをしないで」


「死んだ……兄」


 レティシアという少女と死んだ兄、そして太古の悪魔。


(まさか、ここは――)


「クロスクロムガーデン……」


「何をぶつぶつ言ってるのかしら」


「いや、なんでもない。 改めて確認するが、貴女はレティシア。 レティシア・スフェンハイムで間違いないか? 」


「ええ、そうよ」


(アタリだ)


 間違いない。


 ここはクロスクロムガーデン。


 美波里との共通の話題が欲しくて、俺が遊んでいたゲームの世界だ。

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