企画用

Ame-trine

小川に振りそそぐたっぷりの紅葉

 私の寿命は長くない。私は唯一透き通った川を知っている。最近の川は濁ってばっかでいけないな。下にある藻の漂う様子や、ころっとした石がしきつまっているのが分かるほど、透き通った小川。こっくり、こっくりと清らかに流れていく。

日本で一番栄えている都市、東京。私は今、ここにいる。こんな人が溢れかえるところにそんな小川があるのか、と思ったか?それはあなただけではない。だからこの小川は私しか知らない。私が唯一ほっとできる、大切な場所。ほら、見てごらん。今そこにアユモドキが泳いでいった。そうか、あなたには見えないか。仕方のないことだ。こんな老いぼれに耳を貸してくれるだけで十分。

 私の寿命は長くない。風がビュービュー吹き始めて雨が降ることが多くなった。

そんな時は川辺でのんびりすることもできないから、家に帰らなければいけない。光とは反対の暗いところに。私はいつになったらたどり着けるんだろう。私が焦がれてやまない場所。あなたが行くにはまだ早すぎるから、ひとりでいかなくてはならないな。怖くはないよ、いずれあなたが来てくれるのは知っている。

 私の寿命は長くない。小川は私を歓迎してくれる。麦わら帽子をかぶった半袖短パンの小さな女の子が、小川の向こうを駆けていった。そんな子いないよ?とあなたは言う。それはきっとあなたに視えてはいけないものなのね。それにしても寒さが厳しくなってきた。秋は実りを、彩りをくれる。紅葉の葉が一枚ひらっと瞬いて、小川の上を滑っていった。

 私の寿命は長くない。小川の上には紅葉が数枚、さらさらさらっと流れてく。秋が私を焦らしている。もっとたくさんの紅葉を頂戴よ、私にはもう時間があまり残されていないのだから。小川に降りそそぐたっぷりの紅葉は、あなたが代わりに見ておいて。やっぱり見えないか。でもきっとそのうちあなたにも見えるようになるさ。私はもうそろそろ逝かなきゃいけないから、小川もあなたもさようなら。

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