まずジョーから始めよ

「ですが、このままでは結局、口で言うだけになってしまいます。各村からの嘆願書を揃える事と、煙を上げる仕組みが実際にでき上がらないと、やはり厳しいでしょうね」


 そんな私の言い訳が効果を発揮したのか、リーン女史がやはり見通しの厳しさを挙げてゆく。

 でも、それなら話しながら組み立てた分で対応できそうだ。


 けれど、あくまで控えめに。


「村からの嘆願書については、これから村長たちの会合が開かれると信じたいところなんですが……」

「そうだな。何にしても話し合いは必要になるでしょう」


 レルのお父さんが、それに関しては請け負ってくれるようだ。

 それに巨大熊の事を通達するだけになったとしても、話し合いは行われなくてはならない。それは明白なことだ。


 その上で、ロート村の恐らくは名士であろうはずのレルのお父さんの意向が、話し合いで反映されると、とりあえず信じてみよう。


 リーン女史も、そういう見通しについては可能だろうと考えているのか、この段階では彼女からは声は出なかった。


 で、狼煙についてだけど……


「その話し合いで、煙を上げることが役に立つと思われたなら、各村に私が言って説明します」

「ジョー!?」


 ほとんど反射的に、と言えるほどの速度でレルが声を上げてきた。


「いえ、それだけで熊と向き合おうって話にはなりませんから安心してください。ただどうしても私が行かないと収まらない方も多くいられるだろうと思いまして」


 そんなレルの心配は予測で来ていたので、これまた私は頭の中で組み立てていた「理由」を説明する。


 まず第一に、これほど危険な熊が現れたのは《聖女》のせいであることはほぼ間違い事。

 

 もちろん私はそんなつもりはなかったのだが、ハラー村だけがその恩恵にあずかり、その結果、巨大熊という災厄が他の村にまで迷惑を掛けている。


 そういった状況で、命がかかる可能性があるとはいえ、ただ「協力しろ」という言葉だけでは到底納得できるものではない。


 だからこそ元凶である私が実際に話をしにかねばならない。

 さらにその時に、酪農の現場で祈ることも出来るだろう。冬も間近なので農作物に関しては間に合わないと思うけど。


 つまり――つまり効率的なのだ。私が各村を訪れることは。


 それに現状では《聖女》は暇であることだし、やはり私が適任すぎるのだ。


「――それなら、ジョーさんは最初から村長たちの話し合いに出席された方がよろしいでしょうね」

「リーン先生!」


 今度の私の考え方は、リーン女史からとりあえず及第点を貰えたようだ。

 レルは納得いってないようだけど……


「その方が良いのでしょうか?」

「揃って嘆願書を提出するなら、それがよろしいでしょうね」


 レルを無視する形になったが、恐らくリーン女史の判断は正しい。

 レルの心情や、その他もろもろ調整しなければならないだろうけど、方針はこれで決まりになりそうだ。

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