第2話ツンデレ攻略、大失敗のはじまり

「……入学式、だと?」

ベッドから転げ落ちた俺は、頭を抱えた。

さっきまで恋人だったエリスは、制服姿で俺を見下ろしている。

「寝坊しないでよ、レオン。あなた、初日から遅刻とか……ありえないんだから」

「エリス、昨日……俺、君にプロポーズしたんだ。覚えてるか?」

「は? はぁ!? な、なに言ってるの!? 寝ぼけるのも大概にしてよ!」

……やっぱり。

彼女の記憶は“リセット”されている。

つまり俺だけがループしている。



学院の門をくぐると、懐かしい光景が広がっていた。

石造りの校舎。魔法陣を描く新入生たち。

――すべて“やり直し前”の景色だ。


「はぁ……またここから、か。」

「なにぶつぶつ言ってるの? 変な人ね」

「変じゃない! いや、ちょっと変かもしれんけど……!」


俺は心の中で決意した。

今度こそ、彼女をもう一度惚れさせてみせる。


◆ 王立魔導学院・昼休み


「ねぇエリス、今日一緒に昼食でもどうだ?」

「なに? 急にどうしたの?」

「いや、特に深い意味は……」

「あなたが“意味がない”なんて言うときは、絶対になにかあるわね。」

「ぐっ……!」


前のループで恋人だったせいか、距離感が難しい。

つい馴れ馴れしくして、即ツン対応される。


「あなたと二人きりなんて……誰がそんな時間を無駄にするのよ。」

「無駄って言うなよ! 俺の愛の種まきタイムなんだぞ!」

「なっ……!? ばっ、バカじゃないの!?」


彼女の顔がわずかに赤くなる。

――よし、少しは効いてる。

が、次の瞬間。


「フリーズ・スフィア!」

「うおおおおっ!?」


顔面に氷の魔法。

冷たい。物理的にも精神的にも。


◆ 放課後の図書塔

日が暮れかける頃。

俺はまたエリスを探していた。

どうやら彼女は“卒業論文用の研究”に打ち込んでいるらしい。


「またあなた? 追いかけ回して楽しい?」

「いや、楽しいというか……俺、君の研究を手伝いたい。」

「……また妙な口説き文句を考えたのね。」

「違うって! 本気だ!」

「ふーん。じゃあ、魔導式の数式、解ける?」


机に広げられた魔法陣は複雑で、見ただけで頭が痛い。

……けど、前のループで何度も見た。

記憶している。


「ここだ、誤差は“√2”じゃなく“π/3”だろ?」

「えっ……?」


エリスが目を見開く。

少しだけ、信じられないという表情。


「どうして、それを……?」

「……なんとなく、知ってた。」

「ま、まぁ、少しは見直したわ。でも調子に乗らないで。」


ツン8:デレ2。

進歩、ゼロではない。


◆ 夜の寮・レオンの部屋

鏡に映る自分に語りかける。


「よし、初日終了。成果:氷魔法顔面ヒット3回、好感度±0。」

「……でも、笑ってくれた瞬間があった。」

「あの笑顔、絶対もう一度見たい。」


俺は机の上にあった彼女の研究ノートを手に取る。

表紙の裏に、古い文字が刻まれていた。


“時を繰り返す者、愛を忘れるな。”


その瞬間、微かにページが光る。

嫌な予感がした。


「まさか……これがループの原因……?」


ページが白く燃え上がる。

視界が再び歪む。


「うそだろ……!? まだ一日しか経ってないのに!」


そして、また“朝”が来た。


「おはよう、レオン。今日が入学式ね!」

「……おいおい、デジャヴにもほどがある……!」

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