「悲報」政府に隠されていた最強探索者さん、超深層からの吹き飛び事故で人気配信者に目撃されてしまう
さまたな
第1話 人類最強
ダンジョンが出現してから、世界は変わった。
地下に突然、裂け目が開き、底知れぬ穴が現れた。
そこから伸び広がるのは、限りなく深く層を重ね続ける迷宮。
魔物を倒せば、魔石が手に入る。
危険だが、儲かる。
そして、正しく管理すれば、人類の生活を支えるエネルギー資源にもなる。
――だから人類は、理解したつもりでいた。
ダンジョンとは、「少し危険な資源採掘場」であると。
だが、それは極めて表面的な認識だった。
上層は、魔石を求めて一般人でも踏み入れる穏やかな階層。
中層は、中堅の探索者たちが活躍する常識的な仕事場。
下層は、国家が危険区域に指定し、許可制で立ち入りを管理している。
深層には、誰もが夢見る伝説級の財宝が眠るという。
超深層、そしてその果ての“深淵”に至っては、存在すら都市伝説の域だ。
立派な名前を持つ階層構造。だが、実態を言えば――
「怪物が棲み、魔石が採れる場所」。
人類にとってダンジョンとは、その程度の理解に過ぎなかった。
しかし、世界はまだ知らない。
ダンジョンとは、資源でも、観光地でも、討伐対象でもない。
――それは、世界そのものが生み出した“異常構造”だ。
生物、物質、法則、概念。
あらゆる存在を喰らい、層を重ね、自己進化を続ける「試験装置」。
この事実を真に理解している人間は、ほとんどいない。
正確には――ただ一人を除いて。
⸻
超深層
ここまで来ると、空気でさえ信用できない。
光は淀み、影と溶ける。壁と床の境界も曖昧で、自分の立つ足場すら不確かだ。
一歩を踏み出すたび、空間が軋む。音ではなく、認識の奥で未知の何かがきしむ。
「相変わらず、居心地最悪だなぁ」
肩を軽く回しながら、俺は歩く。
危機感? そんなものは、もう置いてきた。
進むたびに、俺の固有能力――《神蝕の器》が、黙って仕事を始める。
視界の端に、情報の奔流が走る。
地形構造、魔力の流動、敵性存在の反応、因果の偏り。
それらが処理され、人間でも扱える“理解可能な形式”へと自動変換されていく。
「今日は当たりの日かな」
壁が波打つ。粘性を帯びた闇がうねり、一体の魔物が這い出してきた。
歪な肢体。ねじれた関節。表皮は金属質に硬化し、光を鈍く反射する。
触れれば即死級の毒と呪詛をまき散らす、典型的な“下位混成体”だった。
「うわ、お前見た目キモいんだよ。デザイン担当出てこい」
呟き、前に出る。
魔物たちが動いた瞬間、《識》が働いた。
――なるほど。捕縛型。空間固定。可動域制限。
身体が縛られる……前に、“器”が答えを出す。
関節可動域の再構築。筋出力の再配分。
「無効だよー」
足元の魔石を蹴り出す。砕けた破片が反動を生み、俺の身体が宙に浮く。
見える。
――斬撃の軌道、“理解”によって。
「遅い遅い」
左手で首を掴み取る。
流れ込む毒素を解析し、瞬時に耐性式が生成される。
「はい次」
そのまま叩きつける。
――《壊》。
響く衝撃は、大地の脈動のようだった。
魔物は音もなく崩壊し、最初から存在していなかったかのように霧散する。
「……微妙だな」
興味を失った途端、空気が変わった。
張り詰めた気配。
これは、普通の魔物じゃない。
「はいはい、来たよ。今日のイレギュラー」
空間が蠢き、全てが反転する。
出現したのは、まるで神話の異形。
複数の腕と翼を持ち、仮面のような顔がこちらを見下ろす。
存在しているだけで、周囲の法則が歪む。
「やあ。会いたくて来ちゃった」
軽い口調。
だが放たれる圧は、理不尽の極みだった。
「いや、アポ取ってくれ。今忙しい」
拳を鳴らす。
《識》が全開で動き出し、攻撃パターン、因果偏差、時間歪曲まで細かく解析していく。
「人間相手に本気出すの、性格悪くない?」
返事の代わりに、世界そのものが「切断」された。
次の瞬間、視界が白く弾ける。
音が消え、重力が裏返る。
思考より早く、衝撃が身体を貫いた。
「――っ、は!」
巨大な力が出口のない爆風となって押し寄せ、壁が砕け、床が裂ける。
階層の厚みを貫いて、俺の身体は下へ下へと吹き飛ぶ。
魔力が暴発し、空間が壊れる音が耳の奥で反響する。
「出たな、理不尽系!」
超深層から深層、さらに下層へ。
ぶつかるたび、壁が悲鳴を上げて再生するよりも早く崩壊していく。
《神蝕の器》が悲鳴のように起動し、
高位存在の攻撃を“人間仕様”に劣化変換してゆく。
脳の奥で無数の数式が逆巻き、体の構造を書き換えながら落下する。
最後の衝突で、地面の奥深くに突き刺さった。
「……あー、今日は腰に来る日だ」
起き上がると、周囲は中層の再生途中だった。
崩れた壁、焦げた床、まだ固まりきらない空気の匂い。
少し離れた場所には、死にかけの女性探索者と――
それを見下ろすイレギュラー。
「へぇ……運悪いな」
同情の言葉が喉を過ぎるが、それ以上は考えない。
床が完全に再生する前に戻らなければ、厄介なことになる。
だが、道を塞ぐようにイレギュラーが立ちはだかった。
「はぁ……」
短く息を吐く。
「邪魔」
咆哮が中層全体を震わせる。
空間がずれ、存在しないはずの軌道が襲う。
だが、《識》が理解する。
因果を――“ずらす”。
左拳を振る。
――《壊》。
世界が線を描き、一瞬で終わった。
魔物は音もなく消滅し、存在の痕跡すら残らない。
「あ、やば」
修復が始まる床の隙間へ駆け込む。
一瞬だけ、死にかけの女性と視線が交わる。
何かを言おうとして、やめた。
ダンジョンの再生が完了し、全てが“元の形”に戻る。
⸻
超深層側。
再び、足元の世界がねじれていく。
首を回し、笑う。
「いやー、今日も楽しい」
ダンジョンは、攻略する場所じゃない。
理解して、壊して、進む場所だ。
「さて……次は何がある?」
歪みの中心から、再びあの“仮面のイレギュラー”が姿を現した。
今度は、明確な敵意を纏って。
光が捻じれ、世界が逆さまに沈む。
俺は口元を歪めて笑い――構えを取った。
「……第二回戦、行こうか」
超深層の深部で、静かで、狂った戦いが再び幕を開けた。
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「悲報」政府に隠されていた最強探索者さん、超深層からの吹き飛び事故で人気配信者に目撃されてしまう さまたな @SAMATANA
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