第6話  デビュタントはやって来た




複雑な思いを抱えたまま、デビュタントの日はやって来た。


16歳になり、初めて社交界へ・・・成人した報告でもある


私は、オリバー様に贈られた私の色の黒っぽいグラデーションのドレスを纏い、胸に、サファイアのネックレス、サファイアのイヤリングを付けている。


ネックレスを見た時、オリバー様の目が少し見開かれた。オリバー様は、ネックレスとイヤリングは贈って下さってないから。


ダメだった?少しの不安を感じたけれど・・・私は、胸を張ってデビュタント会場に入った。


まぁ、ブライスリー公爵家のアンナ様・・・お痩せになって。


ライディス公爵家のオリバー様ね・・


あら、でも、この前・・・ヒソヒソと密かに囁く声が聞こえる


後見人のオーウェン様ご夫妻よ・・・あら、この前オリバー様とヒソヒソ___ほほほっ


あまり好ましい視線では無かった。


両陛下にご挨拶し、いよいよ、ファーストダンスだ。陛下か王太子殿下が令嬢の相手を務めて下さる。


私は、陛下が踊ってくださった




「アンナ嬢・・息災か」


優しくエスコートして下さる陛下


「はい」


陛下の眼を見る事は出来なかった、とても心配して下さっているのは知っていた。


「王妃も心配しておる。そなたの両親は、我らの・・・最も、信頼する2人であったし親友であったからな。」


「はい、ありがとうございます」


泣いては、ならない。強くあらねばならない。私は、公爵家の後継者。



「オリバーとは・・・仲良くやれておるか?」


え?、、、

「は、はい___その様に・・・認識しております。」


上手く笑えただろうか・・・陛下からこの様な言葉をかけられるとは想定していなかった。


「何か有れば、我慢せずとも良いぞ。婚約も考え直しても良いのだぞ?」


え・・・

返事が出来ないままに、陛下とのファーストダンスは終わってしまった。カーテシーをしてから御前から下がる。王妃様を見ると、心なしか心配そうな面持ちでこちらを見ていらっしゃる。


母と王妃様は、学友時代からの親友だったと聞いていた。


少し、いや___とても嬉しかった。自分の事を心から心配して、見守る人がいるのだと、感じる事が出来た。


その後は、オリバー様とダンスをして、少しすると・・・オリバー様は他の令息達と話があると令息達の元へ行かれた。


初めての夜会でもあり、少し疲れてしまった。



もう、私も10歳の子供ではない今宵からは・・・デビュタントを終えたからには成人とみなされる。両親を喪い、ふわふわと他人事の様に時が過ぎてしまったが___しっかりしなくては。


このブライスリー公爵家を背負って立つのだから___テラスに出て夜風に当たりながら思った。


今宵の月は、とてもとても美しい・・・夜に輝く女王様の様に見守ってくれている様な・・・そんな錯覚を覚えた






☆ ☆ ☆ ☆ ☆




私のデビュタントの一月後、ベリンダがデビュタントを迎えた。



既にデビュタントを迎えている私は別の馬車で王宮へ向かった。


今日は、薄いブルーの柔らかなシルクのしっとりとしたドレスと、濃い目のサファイアで胸元を飾った。



オリバー様はベリンダへもドレスを贈って下さったようで、ドレスが届いてからずっと、ベリンダに自慢されていた。


ドレスは、オリバー様と同じ色味のブルーに、ゴールドがあしらわれていた。胸元には、豪華なゴールドにオリバー様の色のサファイア・・・


同じブルーでも、ベリンダの色とは違っていた。オリバー様の色だったのだ・・・



胸がズキズキと痛む。コレもきっと、私を守る為だわ・・・きっと、そうに違いない。私は#信じなくては__・__#オリバー様の心を。


そうでなくては、立って居られない。


今日、ブルーのドレスを着たのは、私がオリバー様の婚約者だと・・・皆に見せる為?


私のデビュタントは黒いドレスだった事を忘れる為・・・ネックレスは、自分で用意したけれど、オリバー様の色を付けたのも婚約者である事を・・・意識したから


グチャグチャに訳が分からなくなってしまった・・・胸が痛くて___立っているのが辛い。



夜会の会場へ入ると、先に来ていたオリバー様とベリンダが皆と一緒に談笑していた・・・


チラとこちらを見遣り、そのまま笑い合う人々。



また、ヒソヒソと会話が聞こえる。足が竦み、立ち止まってしまった。


「お嬢様。」


と私の誕生日から専属執事となったアランがエスコートしてくれる。


「ええ、ありがとう・・・」


私は、胸を張って、堂々としていなければ___震える足を叱咤し、アルカイックスマイルを貼り付ける。震えてはいけない。


いくら気持ちを強くしようとしても震える手を、アランがしっかりと握り、エスコートしてくれる。セバスチャン・・・アランを専属執事にしてくれて、本当にありがとう。



真っ白になりそうな頭と心を何とか支えて・・・やっとの思いで夜会が終わり帰邸する。



長い長い夜だった

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