第2話  お母様と私




こうして、忙しくも穏やかな日々を過ごしていた私は、7歳になった。


公爵家の跡取りとして自覚も出てきて、お母様にも少しずつ家の事を教えて貰う日々。まだまだ幼い私では理解できない事も、母は、今は解らずともいずれは解る時が来る。


少しずつでも良いから覚えておきなさいと、心に留めておきなさいと、こうして私達が暮らしていけるのは貴族には貴族の役割があり、民には、民の役割があると。


民が支えてくれているからこその貴族である、忘れるなと。優しくも、厳しく言い聞かせた



そして、我がブライスリー家の者だけ受け継ぐ事が出来る鍵


「秘密の、図書室よ?」


と悪戯っぽく私にも手渡してくれた。


「この鍵は、後継者が認めて鍵を直接手渡した者しか使う事が出来ない。謂わば後継者の証。


手渡す者が居なくなればこの図書室の扉は閉じられたまま、次にこの図書室を使う資格がある者が現れるまで、開かない。


永遠に閉ざされてしまうかもしれない扉の鍵なの。


大事にするのよ、アンナ。


今は、貴女と私しかこの鍵は持っていないし、知らないの


入り口は、基本はこの屋敷のあの扉。でも、困った時は、いつでも私達に開かれているわ。


強く、強く念じれば・・・・・扉は現れる」



こうしてお母様は、私に後継者としての1番大切な鍵を渡してくれた。


この時のお母様は、いつもの優しさだけでは無いとても力強い瞳をしていた。黒い瞳に艶やかな黒い髪この国には珍しい公爵家の血を引く者のみに現れる色。


大きめで切れ長の美しい瞳はいつも煌めいていた。


お父様は、金の髪に美しい碧眼。華やかな色と凛々しく美しいお顔。しっかりとした筋肉の付いた偉丈夫だ。


この大切な鍵を渡してくれた時の真剣なお母様のお顔がしっかりと胸に刻まれている。


それからも、日々は穏やかながらに、濃く、厳しく、充実して過ぎていった。そして、8歳を前にして婚約者が決まった。


王命での婚約


婚約者は、同じ公爵位を持つライディス家の3男オリバー様。オリバー様は優しげな顔立ちの、お父様と同じく金の髪に碧眼のとても美しい少年だった。オリバー様は9歳だった。


「初めまして、アンナ様どうぞよろしくね。」


「こちらこそ、初めましてオリバー様。どうぞよろしくお願い申し上げます。」



私の中の王子様。父と母のように仲良くなれるだろうか。その柔らかな微笑みに胸がトクトクと高鳴った。


それからは、時々婚約者としてお互いが行き来し、お茶を飲んだり、勉強をしたり、ピクニックに行ったりと楽しい日々を過ごした。


オリバー様の陽だまりの様な笑顔は、私の心をぽかぽかと暖めて、一緒に駆け回る野原は何にも代え難い大切な宝物だ。


ブライスリー家の庭の木に2人登って日が暮れるまで色々と話したりもした。手を繋ぎ幸せな時間。


レディになる為に頑張っているのに、木登りをするお転婆な私も含めて大切にしてくれていると感じた。



お誕生日が来て、オリバー様は10歳になった。彼には、彼の瞳の色と私の瞳の色の2色の宝石で造られたブレスレットを渡した。


そして、私のお誕生日が来て私は、8歳になった。オリバー様から、彼の瞳の色をベースに金で絡めたブレスレットを贈られた。


それは、私の宝物になった

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