第8話 最弱スキル持ち、ミノタウロスを喰らう
洞窟の奥の奥。
俺たちは、ひときわ重厚な石造りの階段を見つけた。
下へと続く暗闇。
ティアナが神妙な顔をする。
「ご主人様……ここから先、ただのゴブリンの巣ではありません」
ルシアンが頷く。
「この下には、上位魔獣の気配がある。下級冒険者が踏み入る場所ではない」
ミランが耳をぴくりと動かし、尻尾を揺らす。
「にゃ? でもお肉の匂いがするにゃ。おいしそうなやつにゃ」
おいしそう、って言葉に思わず笑ってしまった。
俺は前を見据える。
「行こう。拾いし者たちの本当の戦いは、ここからだ」
階段を降りるたびに、空気が重くなっていく。
地鳴りのような音が響いた。
――ドスン。ドスン。
暗闇の奥で、巨大な影が動いた。
それは、牛の頭を持つ巨人――ミノタウロスだった。
筋肉の鎧をまとい、両手には大きな戦斧。
赤い目がぎらぎらと光り、俺たちを見下ろす。
ティアナが息を呑む。
「上位魔獣……! でも、ご主人様なら……!」
「任せろ」
俺は地面に落ちていた古びた鎖を拾った。
《ゴミ拾い》が反応する。
鎖が光り、手に馴染む。
「行くぞ――《拾鎖斬(ひろさざん)》!」
鎖が鞭のように唸り、ミノタウロスの脚を絡め取る。
巨体がぐらりと揺れた。
その隙にミランが跳びかかる。
「にゃっ、《ネコパンチ連撃》!」
ミノタウロスの腹に連打が炸裂する。
まるで効いていないが、テンションは高い。
ルシアンが詠唱を開始した。
「――《氷槍・蒼牙の陣》!」
氷の槍が空間から生まれ、ミノタウロスの胸を貫く。
それでも、倒れない。
ティアナが前に出た。
「ご主人様、今です!」
俺は頷き、拾ったペンダントを掲げた。
「《神遺収集・拾壊閃(ディヴァイン・クラッシュ)》!!」
眩い閃光が洞窟を満たす。
爆風とともに、ミノタウロスの咆哮が途絶えた。
――静寂。
巨大な体が、ゆっくりと崩れ落ちる。
ティアナが祈るように呟いた。
「……やはり、ご主人様こそ、神に選ばれし拾い人……」
ルシアンは腕を組み、真顔で言った。
「拾うとは、命すら拾い上げること……」
ミランは興奮して飛び跳ねた。
「すごいにゃー! ミノタウロス倒しちゃったにゃー!」
そのとき、俺のスキルが再び反応した。
――《ミノタウロスの肉》を拾いました。
「……えっ」
視界に浮かぶウィンドウを見て、思わず声が出る。
ミランが目を輝かせた。
「お肉拾ったにゃ! 食べようにゃ!」
ティアナが少し戸惑いながらも頷く。
「……神の恵みを無駄にしてはいけませんね」
ルシアンも静かに言った。
「力ある魔獣の肉は、強き者への供物となる。理にかなっている」
* * *
洞窟の外。焚き火がぱちぱちと音を立てる。
俺たちは倒したミノタウロスの肉を焼いていた。
ミランが串を回しながら言う。
「にゃーん、いい匂いするにゃ! ご主人、早く焼けたにゃ!」
ティアナは祈りを捧げるように目を閉じ、
「神に感謝を……この拾いし肉に、祝福を……」
ルシアンは香草を振りかけながら、
「戦場の食卓こそ、魂を研ぐ儀式だ」などと哲学的なことを言っている。
焼き上がった肉を一口。
……うまい。
まるでステーキのような柔らかさ。
噛むたびに、体の奥から力が湧いてくる。
ティアナの頬がほんのり染まる。
「ご主人様……なんだか、体が熱くなってきました……」
ミランは口いっぱいに肉を頬張りながら、
「これ、食べると筋肉つくにゃ!」
ルシアンが冷静に分析する。
「魔獣の魔力を取り込んでいる。……これが、“拾い食”の効果か」
俺の体にも、何かが流れ込んでくる。
視界に文字が浮かんだ。
――《スキル進化:拾い喰い(ジャンク・イーター)》を習得しました。
……いやな名前だが、すごく強そうだ。
ティアナが嬉しそうに微笑んだ。
「これでご主人様は、ますます神に近づかれましたね」
ミランが尻尾を揺らす。
「次はドラゴンのお肉も拾うにゃ!」
ルシアンがうっすら笑った。
「拾う者が喰らう時、世界はひっくり返る……」
焚き火の火が夜空を照らす。
拾いし者たちの旅は、ますます奇跡に満ちていた。
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