緋威ミライ空想戦線
白月綱文
プロローグ
教壇に男が立っている。牧師のような服を着ているがそもそも似合っていない、眼帯を付けている二十代後半程度の男である。
ここは、戦争孤児達に与えられた小さな学び舎。国の外れにある教会の、その敷地内に建てられた木製の教室。
戦争によって1度は更地になり有り合わせの材料で作られた不出来な建物で、その男の他に何人かの子供達が退屈そうに座っていた。
彼が語っているのはこの世界の人間ならば誰もが知っているような歴史である。
国の違いで教育に差はあれど、ここを外すことはまず有り得ない歴史的に見て1番特徴的な部分である。
どういう流れを経て、人々は理想郷を享受するに至ったかという新時代の成り立ちについてである。
と言っても、紛争地帯に被るか被らないかといった
それもあってか、それともその内容の薄さ故か、週に五回は設けられるこの歴史の授業は子供達からの評判はあまり良いものではなかった。
それでも毎日のように彼が子供達に勉学を教えるのは、自分に課した役目であるが故。
例え子供たちが気に入らないとしても覚えて貰うために何度も口にするのである。
と言っても、この先に口にする言葉により全てが忘れ去られてしまうのだが。
「───かくして、人々は科学の進歩により平和を手にした。皆も知っている通り、超能力者の存在が確認されるまでは。」
超能力者、その言葉を耳にして子供達の目の色が変わる。歴史の話がここに差し掛かると、彼ら彼女らは堰を切ったように質問し始めるのだ。
故に何度も歴史の時間を取らざるおえなくなっているのだが、男は困ると同時に嬉しく思う。
本来は、恨むべきなのだ。子供達が孤児になった要因はその超能力者と隣国による戦争のせいなのだから。
それなのに超能力という存在自体に恨みがない、それはこれから時代が進むに当たって必要な感覚だと彼は思う。
遺恨が残ればそれは新たな火種になりかねない。と言っても、単純な善悪で判断をしなくなった聡い子供達に対して彼はそんな不安を抱いたことは無いのだが。
隣国カドリアは能力者の発生の土地であり、今もなお他国から亡命する形で国民の数は増え続けている。
逆に、この教会が建っているここローゼニア国において、殆ど超能力者は確認されて居ない。
超能力者を支持した国であるカドリアとは約十年に及ぶ戦時中であり、民衆の意見は超能力者の事を悪くいうものが大多数だ。
当然、超能力というものが危険性のある現象というのは疑いようもない。それによる忌避も理解はできる。
ただ、知らないのだ。世界のほぼ全ての人間が彼らは味方という形をしていなくとも、敵では決して無いということを。
必要なのは共存であり、支配でも隷属でもあってはならない。しかし、この世界においてそれはただの理想論でしかない。
言葉では兵器も恨みも何も止められない。戦争の終わりは血で血を洗う見るに堪えないものにしかなりようがない。
なればこそ、子供達に対して丁寧に応答をしながら彼は考える。
せめて、これから辿る彼らのその先に少しでも人の踏みにじられない未来があれば、と。
質問攻めも終わり、授業もあと数分でお開きの時間となる。
男は授業終わりの挨拶を告げ、席を立とうとする子供達を牽制するようにまた口を開いた。
「…突然だが、少し遠くに行かないと行けなくなった。しばらく教会を空けるから、僕の居ない間はシスターにあまり迷惑をかけないように頼むよ。」
その発言に対して、子供達の表情は一気に曇り不機嫌になり始めた。
行かないで欲しい、寂しい、なんて言葉が彼へと幾つも投げられる。
十年前に重体でこの場所に運ばれた時は随分警戒されたものだ。それが見る影もなく、こうして惜しんでもらえるほどになるなどあの頃の彼は想像も出来なかった。
過去を思い返せば返すほど、彼はこの場所に来たことで救われたのだと感じる。それと同時に飛び込んでくる寂しさを噛み殺すようにして、男は頬を上げ笑顔をかたどってみせた。
子供達は体当たりに近い速度で駆け寄り、男はそれを優しく受け止めてから、夕食前にはここを出ようと心に決める。
きっと、お別れをきちんと済ませようなんてしてしまったら、いつまでもここに居たくなってしまうのだと分かっていたから。
準備は前日の内に済ませてあり、協会の外へ歩き出してしまえば彼を追えるものもいない。
男がここに帰ってくる事はもう二度とないだろう。仮に再び生き残り帰れるとしても、血に塗れた両手で誰かに触れたい等と望むくらいなら孤独を選ぶような、彼はそんな人間なのだから。
男の向かう先はある兵器開発所である。これからの協力者に会うために遥か先に見えるビル群へと足を進めた。
そして暫く、一刻経ったぐらいだろうか。彼は腰元に掛けた愛銃の手触りを確かめてから空を見た。
男の目に映ったのは雲一つない綺麗な晴れである。そんなものを確認してから男はおもむろに右目の眼帯を外す。
布に隠れていた男の瞳は、左のそれとは違い僅かな煌めきを見せ、何か超常の力が働いているのだと瞬時に察せられるものだった。
青白くそれでいて溶けるように消えていく何とも珍妙な色合いが、男の瞳から溢れるように放たれていたのだ。
「……夜には、雨になるみたいだな。」
男はそう呟いては歩くペースを少し早め、目的地へと急ぐ。
傘は持ってはいないが直線距離を歩けば雲のある範囲を抜けられると男は理解していた。
男の名前はカゲツ。教会の居候であり、未来を観る能力者であり、これから戦争を止める英雄である。
当然、夜になったカゲツの通り道には雨が降った。
緋威ミライ空想戦線 白月綱文 @tunahumi4610
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