カニバル殺しは手を取り合えない

姫路 りしゅう

17話:序盤から追っていた大ボスとの決着

17話「決着」①

■前口上■


人が何かを願う力はとてつもないエネルギーを持っている。


願いは行動を変え、未来を変え、世界を変える。

どんなに小さな願いでも、世界を変えるだけのエネルギーを保有している。


プロ野球選手になりたい、好きな子と付き合いたい、痩せたい。


しかしそれらの多くはいつの間にか消え、忘れられてしまうだろう。

それではその消えたエネルギーはどこへ行くのか。

世界を変えるほどの強い力は、どこに行くのか。


人の願いは、集まり、溶け合い、燻って――


――人を殺すバケモノに成る。



人の願いから生まれたバケモノ、通称『カニバル』。

カニバルに対して、普通の人間は無力だ。


そのカニバルを殺す力を持ったカニバル殺しの堂嶋どうじまミライと樋波燈ひなみあかり


世界中の人を笑顔にしたいミライと、カニバルを殺すためなら手段を択ばない燈は、その正反対の性格から対立しながらもカニバルと戦ってきた。



そしてついに、カニバルを生み出している全ての元凶と単身で対峙した燈は、




■特別オープニングにつき主題歌無し■




 このまま、負ける。


 きっとこのカニバルは俺のことを殺すだろう。

 

 結局俺は――仇を討てなかった。

 足を折られ、倒れたまま立てなくなった燈は、巨大倉庫の黒ずんだ地面をなぞった。

 湾岸沿いのこの倉庫は、数年前に立ち入り禁止となっており、貨物の類はひとつも置かれていない。あるのは激戦を繰り広げた戦闘痕だけだった。


 燈はゆっくりと目を閉じた。

 仇は討てなかったが、この場所で死ねるのなら悪くはないのかもしれない。


 燈の前に立った人型のバケモノ――通称”カニバル”の右腕が赤黒く染まっていく。

「アカリ、最後に少し話でもするか」

「……生憎、自分を殺すバケモンと談笑するような寛大な心は持ち合わせていなくてな。早く殺せよ」

「フン。その減らず口を聞くのもこれが最後か。最後くらい私を名前で呼んでほしいものだ。何度か言っているだろう、私の名前はルルド」

「早く殺せ、クソバケモン」

 ルルドと名乗ったカニバルは溜息をついて、右手を掲げた。


「さよならだ、アカリ」


 ルルドが右手を振り下ろそうとした瞬間、ギィィと重い音が響いた。

 巨大倉庫の入り口の扉が開いた音だった。

「……誰だ?」

 

 湾岸の夜は暗く、今日は月明かりもない。

 扉が開いても光は差し込んでこなかった。

 ぼんやりと人影が見えるのみである。

 しかし、燈はその人物に心当たりがあった。

 こんな時に駆けつけてくる人物に、心当たりがあった。


「……チッ」


 燈は無意識のうちに舌を打っていた。

 その人間の無邪気な笑顔が頭によぎる。

 夢見がちで現実を知らない未熟者。

 現実主義者の燈とは正反対の青年。

 「世界中の人を笑顔にしたい」という、反吐が出るほど甘い夢を掲げる人間。

 何度対立しようと、未だに燈とわかり合えると信じている甘ちゃん。

 燈と同じく、バケモノを殺す力を持った――戦士。


「大丈夫ですか、燈さん!」


 堂嶋ミライは血に塗れた燈の姿を捉えた瞬間に顔をゆがめ、叫んだ。


「ああ、貴様か」

「……ルルド」

 ミライは拳を強く握りしめて、憎しみの籠った目でルルドのことを睨みつける。

 そのままもう一度燈の方に目を向けて、「大丈夫ですか」ともう一度尋ねた。

「何しに来た」

 燈は吐き捨てるように言った。

「何しに来たって……決まっているでしょ、カニバルを――ルルドを倒しに来たんですよ。それが僕たちの役目じゃないですか」

「やめろ、手を出すな」

「『あいつは俺が殺すから』ですか? そんな満身創痍で何を言っているんですか」

「違う!」

 燈は全身の痛みを堪えながら叫んだ。

「お前に敵う相手じゃないと言ってるんだ!」

 彼の口から出たのは意外にもミライの身を案じる言葉だった。

 燈はミライのことを嫌っているが、彼の戦力を侮っているわけではない。

 それでも、彼がルルドに敵うとは思えなかった。


「俺が時間を稼ぐから、逃げろ」

 そう言いながら、彼はすぐ傍に転がっていた剣を握り締めた。

 カニバルを殺すための武器、カニバル殺しの剣を杖のように地面に突き刺し、ゆっくりと立ち上がる。

 折れた足に痛みが走る。それでも、数十秒程度の時間稼ぎくらいならできそうだった。


 ルルドは一連の様子を興味深そうに眺め、燈が立ち上がったのを見て嬉しそうに笑った。

「まだ、立つか」

「本当はこのまま死ぬつもりだったんだけどな」

 全身の痛みを堪えながら、彼は立ち上がった。

 ミライの方をキッと睨みつける。


「馬鹿野郎、早く逃げろって言ってんだ!」


 しかしミライはゆっくりと首を横に振って笑った。


「ねえ、燈さん」

「……なんだ」

「僕たちは今まで、何度も対立してきて、時には刃を向け合ったことだってありました」

 ミライは自分の頬にある大きな傷跡をなぞった。

 それはかつて燈の剣につけられたものである。


「燈さんと僕は、考え方が違う。あなたは僕のことが嫌いでしょう。それは知っています。でも僕も、あなたの考え方を絶対に受け入れたくありません。残念ですけど」

「……だからなんだ」

「でもね、僕思ったんです」


 ミライはルルドを睨みつける。

 ルルドは腕を組んだ姿勢のまま、その視線を受け止める。


「あいつを倒したいっていう気持ちは、僕と燈さんで共通してるんじゃないですか?」

「…………」

「僕とあなたはまだ分かり合えていない。いつか分かり合えると信じていますけど、それはたぶん今日じゃない。燈さんは僕の考えを受け入れない。世界中の人を笑顔にしたいって言っても、無理だと切り捨てる。でも僕だって、あなたの考えは受け入れない。それでも!」

 ミライは人差し指を立てて空中に線を引いた。

 その軌跡に合わせて空間が裂け、隙間から赤黒い光が零れる。


「それでも、今この瞬間だけは――


――協力、しませんか?」


 ミライは切り裂いた空間の隙間に手を入れ、そこから銃を取り出した。

 それは燈の剣と同じ性質を持つ、カニバル殺しの銃。


 ミライが燈の目を見る。

 燈もミライをまっすぐ見つめ返し、息を深く吐いた。

 再び剣を握る手に力を込める。


「なあ、堂嶋ミライ」

「……なんですか」

「協力なんて笑わせること言ってんじゃねえ」

 燈は立ち上がって剣を構えた。床に唾を吐くと、血が飛び散った。

「でも」

「俺はお前に協力しない。俺はお前に背中を預けない。お前の背中も守らない。主義主張の違う人間に、命を預けることなんてできない!」

 それを聞いたミライは顔を歪めた。説得しようと口を開くよりも先に、燈が言葉を続ける。


「だからお前も、俺に背中を預けんな。俺の背中を守んな。俺たちは仲間じゃねえってことを、絶対に忘れるな」

「…………」

 ミライは燈の言葉をゆっくりと反芻して、目を見開いた。


「それって……!」


「たまたまだ」


 燈はゆっくりと構えた剣の切っ先をルルドに向けた。

 ルルドもそれに呼応するかのように戦闘態勢に入る。

 数秒見つめ合った後、燈の口元がふっと緩んだ。


「今日はたまたま、敵が同じってだけだ!」

「ははっ、最高じゃないですか!」


 ミライは軽いステップで燈の傍へと駆け寄り、隣に並んだ。

 二人が並び、ルルドと対面する。


 ミライが力を手にし、燈と出会ってから数か月。


 対立し続けていた正反対の二人が、今日初めて、横に並んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

カニバル殺しは手を取り合えない 姫路 りしゅう @uselesstimegs

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画