自転車泥棒
これは知人が、その友だちから聞いた話なんですがね。又聞きなんで、どこまで本当かは分かりませんが。いや、そもそも「怪談」なんてのは「怪しい」話ですからね。
それで、まあ、あんまり気構えないで読んで欲しいんですけどね。
彼が言うには、その友だちは、彼の友だちでは長いので仮にHさんとしましょうか。
Hさんは、いつも自転車で駅まで通勤してたんです。別に普通のママチャリですよ、妙に高価でゴテゴテしたようなロードバイクでもない、ただのママチャリ。
でも、その自転車は何回も何回も盗まれるらしいんですよ。それで、盗難届を出すんだけど、結局は自転車集積所で見つかる。
「おかしいな、変だな」ってんで、ついにGPSを付けたんですね。GPSといっても仰々しいものではなくて、ほら、最近のスマホで見れるような小さいやつ。アレをつけて、探すようにしたんです。
すると、2ヶ月ほど経った頃ですかね。スマホが鳴って「位置の移動を検知しました」って通知が来るんですって。これ自体は、そういう設定にしてたんで、別に変なことじゃないんですけどね。
Hさんは「よしきた!」と意気込んでスマホの画面と睨めっこしながら、どこまで行くかを確認してたんです。すると、不思議なことに位置情報は、グーッとゆっくりゆっくり動く。まるで自転車には乗ってないように……
「歩いて押してるのかしら」なんて思いながら、位置情報を確認する。ゆーっくりゆーっくり動く青い点を目で追いながら、スマホと睨めっこ。
ふと、Hさんは違和感を覚えるんですね。
「あれ?これおかしいな。うちに向かってるな」
そんな風に感じ始めたんですね。
ゆーっくりゆーっくり青い点は動いていく。
そして少しずつ、家に近付いていく。
「嫌だなあ、気持ち悪いなあ。通り過ぎてくれよー」
なんて心の中で呟きながら、青い点を追いかけていく。
するとピタッと青い点が止まる。
それも家の前で、ピッタリ止まるんです。
Hさんは、3階建てのアパートに住んでいて、外階段を登って2階のところがHさんの部屋。
自転車置き場は、アパートの1階の
だけど、まあ、GPSですからね。1階だとか2階だとかは分からない。
Hさんは「嫌だなー」と思いながら、スマホの画面を眺めてると、どうも動きがない。
20分、30分
「何してるんだろうなあ」なんて見てたんですが、仕事中ですからね。ずっと見てられないってんで、スマホを閉じて仕事を再開した。
終業の時間になって、オフィスがざわざわと帰り支度でうるさい中、Hさんは「そういえば自転車、どうなったかな」なんてスマホを何気なく見たんですね。
すると青い点はビターッと家の前で止まったまま。
「嫌だなあ、ここに帰るんだけどなあ」
でもね、言ってられないですからね。
駅へ向かって電車に乗って、それで帰路に着くわけです。
最寄りの駅、もう帰る頃には薄暗い時間ですよ。1人で歩いて帰る。不気味だなあ、嫌だなあ、ってことがあると、不思議と肌寒いような気がするもんですが、Hさんも「いつもよりも冷えるな、寒いな」と思いながら、マフラーを引き上げて、歩く。
ふと「そういえば青い点もここを歩いてたんだよな」と思って「嫌なこと考えちゃったなあ」なんて、不気味な気持ちで歩いていく。
不安な気持ちとは裏腹に無事家に着いて、それで自転車が置いてあるであろう自転車置き場を見にいく。
するとね、あるんですね。自転車が。
ゾッとしますよね。自分の家を知られてるんですから。
「もういい、見なかったことにして、この自転車にも乗らないようにしよう」
そう思ってタンタンタンタンっと階段を登って部屋に入る。
すると間も無くしてピーンポーンとインターホンが鳴りましてね。
怖いことがあってすぐのインターホンですよ。まさに怪談じゃないですか。
でもHさんは「なんだろう」ってんで、インターホンのボタンを押して恐る恐る
「はーい。どなたですか」
と言うと、向こうからは朗らかな男性の声で
「すみませーん。先ほど、落とし物をしたのを見まして」
と言葉が返ってくる。
なんだ、落とし物を届けてくれたのか。
そう少し安心して「今行きますー」と扉を開いて、外に出る。
すると、そこには1枚の紙が置いてありましてね。
それを見てHさんは
「うわ!」
と部屋に引っ込んだんですね。
紙の上には、Hさんが自転車につけていたGPSが置いてあって、紙には遠くからでも分かるような文字で
「部屋、ここなんですね」
と一言書いてあったんです。
この話を聞いて、知人に「それで?Hさんはどうしたの?」と尋ねたらですね。
「元気にその部屋に住み続けてるよ」なんて笑ってましたね。
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