黒い影
これは僕が大学生の頃に経験した話です。
大学の3回生の時、僕はアメリカに留学していました。むこうで授業を受けて、そのまま卒業単位が取れる形での留学でした。
なので、僕は毎日英語で授業を受け、課題に追われる生活を送っていました。
「なんだよ、話に聞く留学とは全然違うじゃないか」
24時間空いている自習室でパソコンに向かいながら頭を抱え「こんなはずじゃなかったのに」と嘆いていました。
話に聞く煌びやかな留学生活。アメリカという大地に友だちと楽しく過ごすキャンパスライフ。
もちろん、僕にも友だちは居ましたが、ただでさえ慣れない英語の授業について行くのに必死で、自習室にこもる時間の方が長かったのです。
ある夜、僕が自習室から出てフラフラとキャンパスを歩いていると、僕の視界の端に誰かが立っているのが見えました。
こんな時間に林の影で、不用心な人だな。
と僕は思いました。辺りには大学しかなく牧歌的で平和な学生街とはいえ、夜の林で立ち尽くすのは安全とはいえません。
僕がどんな人だろう?と思いそちらに目を向けると、その影は跡形もなく消えていました。
おかしいな、見間違いかな。きっと疲れてるんだな。
その時はそう思って部屋に戻り寝てしまいました。
次の日、影のことなどすっかり忘れて大学へ行き、授業を受けて友だちと昼ごはんを食べていると、また視界の端に黒い影が見えました。
僕がそちらを見ると、また影は跡形もなく消えてしまいます。
友人は僕のその様子を見て「どうしたの?」と聞いてきました。
僕が「いや、昨日からなんか変なんだよね。黒い影が見えるんだ」と言うと、彼ハッとしたような顔をして「それさ、ちょっと見えるんだけど、すぐ消えちゃうやつ?」と聞いてきました。
「そうそう!それだよ」と僕が言うと、彼は僕の顔を指差して「メガネ」と言いました。
「メガネ?」と僕が聞き返すと「それ、メガネのフレームだよ」と言って笑いました。
僕は「まさか」と笑ったのですが、確かに意識してみれば、フレームが視界の端でチラチラと見えています。
「ああ、そうかも。ありがとう、教えてくれて」
「馬鹿なだなあ!なんでそんなことにも気付かなかったのか。勉強のしすぎだよ」
と僕らは笑い合いました。
その日の晩、僕は相変わらず自習室で勉強していました。その時は珍しく人が少なくて、部屋の一角は省エネのために電気が消されています。
僕がなんの気無しにそちらに目を向けると、またチラチラと黒い影が見えました。
またメガネのフレームが見えているな、と思った瞬間、ゾクゾクっと鳥肌が立ちました。
僕はその影を視界の端ではなく、ハッキリと捉えていたのです。
そして、その影はゆっくりと輪郭を得て、僕に近付いてきます。
僕は慌てて荷物をまとめると外に出ました。
あれは何だったんだろうか。
今となっては知る由もありません。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます