奇怪伝聞譚

千ヶ瀬 悠

白い女

これは高校生の頃、僕が友人から聞いた話です。

仮に彼の名前はAくんとしましょう。


当時、彼は東京の郊外に住んでいました。最寄りの駅は各駅停車しか停まらず、いつも「不便で仕方ない」と愚痴をこぼしていました。


ある日の夕方、いつものように電車に乗っていたAくんは、速度を落とし停車しようとする景色の中に、女の人が立っていることに気が付きました。何のことはない普通の女性なのですが、身体は透き通るように白く、どこか変な雰囲気に彼の視線は釘付けになったと言います。

停車した電車から降りて、ホームに出ると今度は改札の前にその女の人がいることに気が付きました。


「変な人だな」と心の中で思いながら、彼が改札を抜けて彼女とすれ違う瞬間、耳元で「見えてる?」と聞かれたそうです。

Aくんは「わ!」と驚いて早歩きで駅構内を抜けていきます。すると後ろからカツカツと足音が聞こえてきて、何かが追いかけてきます。彼は、直感的に「追いつかれてはまずい」と足早に逃げました。

次第にハアハアと息が上がっていき、駅前のバス通りに出る頃には肩で息をしていたそうです。


Aくんはいつもはバスに乗って帰るのですが、薄暗いバス停で足を止めるのは、あまりにも怖く、その日はそのまま歩き続けたそうです。


ゼエゼエと息をしながら住宅街を抜けていきます。ハアハアと肩で息をしながら公園を横切ります。


ゼエゼエハアハア


その時、Aくんは自分の息遣いに違和感を感じました。


ゼエゼエハアハア


彼は呼吸を整えて、フーっとゆっくりと息を吐き出しました。


ゼエゼエハアハア


「うわあ!」と彼は思わず声を上げました。

だって、おかしいじゃないですか。Aくんはフーッと息を吐いて呼吸を整えたのに耳元には


ゼエゼエハアハア


と息の上がる声が聞こえたんですよ。


そして、Aくんは立ち止まって、目を瞑りながらゆっくりと後ろを振り向きました。


「誰もいませんように誰もいませんように誰もいませんように」


そして、ゆーっくりと目を開けると


「何だ何もいないじゃないか」


彼は安堵に胸を撫で下ろしました。

そして、安心して帰宅したそうです。


家に帰ると彼は、階段を上がり自分の部屋に入って荷物を下ろしました。汗をかいたワイシャツがパターッと彼の身体に張り付いて

「嫌な汗をかいたな。なんだったんだろうか」

とため息をこぼしました。


そして、服を脱ぎ、ワイシャツを脱衣所に持っていこうと扉を開けた瞬間


「見えてる?」

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