鏡のムコウ

@Hamamochi

第1話 笑顔の儀式

私は毎朝、笑顔の練習をする。

鏡に向かって口角を上げる。私が私であるための儀式のように。



「おはよう〜!紫藤さん」

「あ、おはよう」


毎日、同じ時間に同じ場所に集まって、同じ服を来て、同じことをする。

同じことの繰り返し。

私の普通は普通にやってくる。

普通は普通だよ。誰がなんと言おうと、普通。

……なのに、息が少しだけ合わない。


「…さ、ん!、……どうさ…!」


「透ちゃん!!」


え、、?


「呼ばれてるよ!先生に!ほら日直!」


あ、今日の日直、私か。


「じゃあ、今日も1日頑張るわよ!

今日は、6時間目に委員会決めをするから、うーん日直さん、よろしくね」


え……。これって日直の仕事なの。

そこら辺の陽キャでいいじゃん。めんどくさいなぁ



「紫藤!委員会、なにがあるのー?」


これ、やらないけないやつじゃん。

残り時間は、30分。その内に決まるかな、?

やりたいやつやりゃいいんよ、そんなの。


刻刻と時間はすぎていき、委員長の枠だけが空いていた。


「委員長なりたい人いませんかー?」


一向に手が上がる気配なし。あと5分。決まらなきゃ居残り確定。そんなのみんな嫌に決まってる。


「なぁ、もう委員長、紫藤でよくね?」


え。


「いいんじゃない?これまとめるのも上手いし!」


え。え。


「いいじゃん!紫藤さん!やってくれない?」


え。え。え。


「お願い!!紫藤さん!!」

「紫藤!紫藤!紫藤!紫藤!」


響く声の波に逃げ場がなくなる。

それでも私は笑って頷くしかなかった。



私のバカ。居残りにならずに済んだクラスメイトは、教室を飛び出していく。

私は、委員長という役職のもと、日誌の管理と黒板を消す仕事が追加された。


はぁ、帰路につき、手を洗う。

鏡の中の私は、疲れきった顔をしていた。

笑顔にならなきゃ。お母さんに心配されちゃう。

無理やり口角を上げようと口元に手を伸ばした。


「え、、、」


鏡に写る私は笑っていた。

私よりも先に。




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