虹霓

綴屋千瀬

虹霓

学校の交友関係程、面倒なことはない。1歩間違えれば孤立しかねないのだ。一つ一つの選択にさえ神経をすり減らす生活には、溜息も出るというものだ。相手の機嫌の為「建前」を並べる。嘘を言っているのではない、本音を言う事に必要性を感じなくなったのだ。



午后の授業中、雨が降っていた。

私は思うのだ、この内のひとつの雨粒になりたいと。空高くから落ち、地へ染み込んでゆく。

どうにも私には雨粒ひとつがとても美しく見えるのだ。


私は友人達と一緒に帰る約束をしていた。私の家は遠く、友人と帰るには遠廻りをしなくてはならなかった。これが面倒で、特に疲れている日には氣が滅入ってしまう。


「外、雨止んだ。」

「篠原も一緒に帰れるな。」

「ああ、そうだ。教室に忘れ物をしてきた。少しまっていてくれ。」



放課後の抜け殻のような校舎。

誰かが鍵でも閉めて、閉じ込められて仕舞えばいい。独りの世界、意外なことに嫌な感じはしなかった。


私は言った。


「雨が降れば、1人になれたのだ。なのにどうして晴れた。私はちっとも嬉しくない。」


空には、二重に虹がかかっていた。

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虹霓 綴屋千瀬 @tuduriya_

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