何故、乙四に受からない?

本書ではこの乙四の項に限らず才能や努力の不足云々ということは論じない。

そのような心理学や精神論は受験戦術ではないからである。

この試験の最大の隘路は前項で述べた消防に関する法令ではあるが、それでも六割を取ることはそれほどの難事でもない。

他方、化学や消防知識でも満点を得ることは必ずしも容易ではない。

しかしながら試験結果としては満点も六割も同じようなものである。

余は、この試験に落ちる人の多くには、次の二つの傾向のいずれかがあると思う。

ひとつは満点を志向することである。

準備においても当日の受験においても非効率で不利である。

危険物取扱者に限らず比較的難易度の低い試験の受験戦術として満点志向はもっとも避けるべきこととされていると思う。

いまひとつは消防知識への無意識的な忌避である。

例えば日常から消火栓の前や有事の避難経路に物品を置いている(住居や職場の環境で置かざるを得ない)人もあると思う。

或いは調理に火を用いるときの服装も。表面積の小さい(凹凸の少ない)意匠の、天然繊維(麻、絹、木綿)の衣類を用いることに留意する人がどれほどあるか?

それどころか、火を用いていても来客などで離れることもあるかも知れない。

また、天ぷらを揚げたあと鍋を拭いた紙や布の管理が粗雑になったり。そもそも天ぷらを揚げていて火が出た場合でも咄嗟に水を掛けてしまう人も居るかも知れない。

水は化学的に極めて安定しているとともに比熱も大きく、また廉価でもあるから。防火、消火には最も有効な物質ではあるが、ただ油を弾く性質がある。

家庭の天ぷら鍋程度なら水で消しおおせることも多いかも知れないが、消せないと燃えた油が飛び散って甚大な被害になる。すなわち試験では誤答である。

あるいはまた。消毒のためのアルコール類にも、格別の手続と設備無しに保有できる量には制限がある(指定数量)。

前項で述べたように油脂とアルコールは同じ4類に属するので灯油や食用油などと指定数量の枠を共有している。飲食店や介護施設などでも倉庫がひとつしかなく防火設備がなければ、一軒家と同じ数量しか、そのようなものを持てない。

このように、消防知識を守らない文化、守っていられない環境の中に生きていると。

どれほど努力して消防法を学んでも容易に身につかないと余は思うのである。

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難易度の低い国家資格取得 無用先生 @muyoh

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