児童公園 —真夏の幻影—

Kay.Valentine

第1話

児童公園 


蝉時雨 正午 人無き 公園で 亡き子と戯れ 立ちているかな


   ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~


今年の夏は異例なほどの猛暑になった。

マスコミは連日どこどこが四十度を越えたと報道していた。

こんな時にはあまり外に出たくないなあ。

タバコを吸いながらリクライニングチェアに横たわってぼんやりとそんなことを考えていた。

しかし毎年お盆は実家に弟や妹の家族が集るのでうちだけ行かないわけにもいかない。

几帳面で働き者の妻はさっさと出発の準備を済まして

「早くしないと予約の電車に間に合わないわよ」

「うん。そろそろ出るか」

「タバコの火、ちゃんと消してね」

「ああ。わかった」


電車は混んではいたが、指定席だったので窓際の席でゆっくりとすることができた。

実家といっても東京近郊の小都市だったので時間はそれほどかからない。


それでも去年までは三歳の娘がいたので大変だった。自分のお気に入りの人形を抱え、宝物のようにしているおもちゃ類を、幼児アニメのキャラクターバッグに念入りに詰め込んで持っていく。さらに娘の着替えも大人顔負けの多さだった。


さらに、お菓子屋や土産物屋を通れば、あれが食べたいこれが欲しいとダダをこねるし、ケーキ屋の前でおいしそうなパフェなどをめざとく見つけてそこから動こうとしないし。おまけに珍しいものを見つけると車が走っていることなんてぜんぜん考えずに車道にとび出そうとするし。まったく気の休まるときがなかった。


しかし娘は去年の秋に事故で死んだ。だから今度のお盆は娘の新盆ということになる。


今年は静かな帰省になった。ぼくはただぼんやりと妻の言うとおりに動いていればよかった。


実家に着くともうみんなあつまっていた。去年まではむかしみたいに迎え火をや送り火をするわけでもなく、ただなかなか会うチャンスのない親兄弟が集ってご馳走を食べながらわいわいがやがやと楽しむだけだったが、ことしは、青いひかりの灯篭がくるくると回り、娘用に作られたなんとかという台に娘の好物やなどを置き、ひさびさに迎え火をたいた。


弟と妹夫婦にはまだ子供がいなかったのでおとなだけの会話


たばこがきれたので近くのタバコ屋に行く


とちゅう ペットショップ 児童公園


それぞれの前で 去年むすめといっしょに来たときのことがあざやかによみがえる


~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ 


ペットショップ  いろんないぬがいる  「このちいさないぬかわいい」 ちわわ

娘が手をやる  犬がよってくる  


~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ 


公園で 砂遊び

娘  むちゅうで砂でなにやらおおきくふくざつな山みたいなものを

つくっている


「なにをつくっているの」

「お城をつくているの。えりちゃんはね ここのおひめさまなの」

「ここはなーに」

「ここはえりちゃんをきれいにするおへや」

「ここのたかいのは」

「えりちゃんのおうじさまがいつもいて てきからえりちゃんをまもってくれているの」


どろんこになったてをふき こうえんの水道であせをあらいおとす


「あついからかえろうよ」といっても こんどはすべりだいという


あせなんか気にせず すべりだいにいく


「ぱぱもえりちゃんのうしろからすべってきて」

  

しかたなしにたばこをくわえながらすべる 

 

なんどもなんどもくりかえす


その年は冷夏といってもいいほどのそれほど暑いなつではなかったが、なつにはちがいない。   

だっすいになるといけないのでペットボトルのみずをのませる


「ちょっと、きのかげにいこう」 


ふたりでこかげのベンチにすわる 


むすめはぼくのよこに まるでおにんぎょうのようにぴょこんとすわる


ペットボトルの水はふたりぶんあったので ふたりでみずをのむ。


   ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ 


去年のことが次々に浮かんできてぼくはそこにくぎずけになったようにうごけなかった


われにかえって腕時計をみるともう一時間たっていた


いけない はやくかえらなきゃ


そう思ったとき 吐き気がし、めまいがした


たばこを吸う気にもなれずそのまま実家にかえった。


玄関を入った瞬間、めがまわりあたりがまっくらになった  


「兄貴がたおれてる」


「どうしたの」


「救急車よべ」


まわりがさわがしくなったのがわかる  


そのさわぎがだんだんととおくできこえるようになり、やがて娘のかおがとおくにぼんやりうかぶ  


ああ やっぱりおぼんだから かえってきてくれたんだね  


むすめはにこにこしていた あちらでもたのしくしている様子だった


かえってきてくれてありがとう  


そういったあと ぼくはまっくらなほらあなのようななかにおちていった。 


                二〇一三年二月十日 午前九時二十三 Kay



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