分類不能の本棚

ミカエリス(17歳)書庫の整理当番の日


【sideミカエリス】


山積みの本、あるいは本とは名ばかりの紙片の塊は埃を被っている。


棚は天井まで積み上がり、通路は人ひとりがやっと通れるほどだった。

窓はない。手元の灯りがゆらめき、ふわりと汚れを白く浮かび上がらせてくる。


素手で触るのは躊躇われた。

服は確実に汚れるだろう。


書籍が痛まないように、薄暗い部屋。

空気は悪く、気分も最悪。

はっきり言って苛つく。溜め息とともに吐き出る言葉。



ミカエリス「ここは混沌を極めているね。

これを秩序に収めるなど、できるわけがないのに」


ラファエル「……嫌なのはわかるけどね、やるしかないんだよ? ミカエリス」



本当に糞真面目だなぁ。

誰も見ていない時くらい、悪態をつけばいいものを。

見本でも見せてやりましょうか。



ミカエリス「これを個人の采配で行い、それを強制しようなど、愚かしいと思わないのか、ラファエル君?」


ラファエル「そうだね、でもそういうルールなんだから、適当に合わせるものだよ」




作業するたびに白い埃が舞い、頭を掻きたくなる。

この手で、掻きむしってしまったら、大変なことになるから、しないけど。


ちぇ、適当に合わせてくれてもいいのに、冷たい奴だな


ラファエル「聞こえてるよ? ほら、さっさと終わらせてしまおう」


ふぇーい、やる気のない返事をして、分類作業は再開された。



ミカエリス「俺達も、どうして分類されたんだろうな」



ラファエルはこちらを振り向かずに手先を動かしている。

やはり、こいつは冷たいんだろうか。



ラファエル「ほら、終わった」

手についた埃を眉を顰めて拭う。

咳こみながら、彼は言った。



「……大人の都合なんて、知らないよ」



こいつも苦労したんだろうなぁ。

こんな風にしか、話せないなんてさ。



"お前までやる必要なかったのに"

その言葉を飲み込み、目線を流す。



綺麗に棚に収まっている紙の束は、何故か違和感があって、立ちくらみをおこしそうだった。


ひらりと一枚、端が折れた紙が溢れて落ちた。


拾い上げると、古い文字が滲んでいる。

意味はわからない。

けれど、どこか見覚えがあった。


――そういえば。



「どうして、“エル”って呼ばれてるの?」


ラファエル「異国の言葉で、神とか天使って意味らしい。

母が……よくそう呼んだから、みんな、そう呼ぶんだよ」


──まるで、呼ばれることが苦痛であるかのような顔。


ふーん、そう。

わざと興味なさそうに返す。


そんな顔をさせたくて呼びたくなったのか、

そんな風に思ってほしくなくて呼ぶのか。

自分でもよくわからないまま、口走った。



「じゃあ、俺も“エル”って呼ぶわ」



……それなのに、どうしてエルは、

少し嬉しそうに見えるんだろう。


開かれた扉から差し込む光は柔らかいのに、暗闇に慣れた目には、やけに眩しかった。

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シャルモン・モノローグ kesuka_Yumeno @kesuka_Yumeno

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