TSのじゃロリ師匠は弟子を庇って死にたい
ビューティフル佐々木
師匠、死す。
「カイト!背筋が歪んでおるぞ!やり直しじゃ!」
「またぁ〜!? もう勘弁してよぉ」
サイズの合っていない魔女のような服を着た幼女が、古臭い口調で言いながら青年の背中をビシバシと叩いて曲がっていることを示し、それに対して青年は気だるげに返した。
その光景はどこか異質で、微笑ましく、そして温かかった。
◼︎◼︎
俺の今世での名前はマリア。
前世では男だったが、事故死してこの世界に歳を取らない女児として転生した。
転生したのはそれなりに昔のことになる。大体、この世界に生まれて40年ほど経っただろうか?この体は歳を取らないのでよくわからない。
俺は15年ほど前、冒険者として各地を旅して回っていた。
そのころには既に冒険者を始めてから20年が経ち、そろそろ引退することを考え始めた時期だった。
そんな時、旅の道中で壊れた馬車の中から赤ちゃんを見つけた。
おそらく状況から考えて、両親を魔物に食い殺されてしまったのであろう。
俺はその赤ちゃんを放っておくことができず、冒険者の引退を機にその赤ちゃんを育てることにした。
◼︎◼︎
俺は拾ったその赤ちゃんにカイトと名をつけ、育てるのと同時に弟子として鍛えることにした。
そして、カイトは今年で16歳になる。
幸か不幸か、カイトには戦いの才があった。
幼い頃から俺に弟子として鍛えられたことでその腕をメキメキと上げ、今やこの世界の平均的な強さを大きく上回る強さを手に入れた。
カイトがこの世界での成人を迎えることもあって、俺はカイトに独り立ちさせることを考え始めていた。
しかし、カイトを独り立ちさせるには不安が残る。
カイトは強すぎるのだ。
この俺をも超えるほど。
本当は俺に教えられることなど既にないのだが、姿勢や足運びに難癖をつけまくることでなんとか師匠としての体裁を保っている。
しかし、自身の方が強いことがバレるのは、時間の問題だろう。
思春期真っ盛りのこの時期に、自らが最強であると分かれば、カイトは間違いなく調子に乗って油断し、やがてみずからの身を滅ぼすことになるだろう。
俺はカイトにそんな目にあって欲しくない。
なので、俺はその天狗になるであろうその鼻をへし折るべく、ある作戦を決行することにした。
◼︎◼︎
その作戦とはズバリ、"師匠が自分を庇って目の前で死ぬ"作戦である!
目の前で親代わりの師匠が自分を守って死ぬことになれば、自らの力不足を悔やんで慢心をすることは無くなり、修練を怠ることもしなくなることだろう。
"目の前で死ぬ"とは言っても、本当に死ぬつもりはない。あくまでも、死んだふりだ。
この作戦を実行した後は、カイトが独り立ちできているのか、後ろをつけて監視させてもらうことにしよう。
さて、作戦の概要についてお話しよう。
1、俺がカイトを模擬戦に誘う。
2、あらかじめ召喚しておいた召喚獣を呼び、模擬戦に乱入させる。
3、カイトに召喚獣を倒すように指示し、倒させる。
4、こっそり召喚獣に回復魔法をかけて回復させ、召喚獣にカイトを攻撃させる。
5、俺がそれを代わりに受けて死ぬ。
これが作戦の概要だ。
なんだかガバガバな気がしなくもないが、この俺であれば問題何も問題はない!
◼︎◼︎
時は流れ、作戦決行予定日当日。
「のう、カイト。 久しぶりに模擬戦をしないか?」
「なんだよ急に」
俺が素振りをするカイトを模擬戦へと誘うと、カイトが怪訝そうな顔をしながらそう返した。
「お主もそろそろ成人じゃろ? 弟子の身分からの卒業式も兼ねて、最後に模擬戦をしようと思っての」
「本当に何なんだよ急に。卒業だなんて、今まで一度だって言わなかったじゃないか」
「グチグチとうるさい小僧じゃ。 こっちじゃ、ついてこい」
俺はダボダボのローブを引きずりながら手招きして、外にある訓練所へと向かった。
◼︎◼︎
俺たちは円形の訓練所の端にに立ち、お互いに向き合った。
「さて、始めようかの」
「あぁ」
最初に動き出したのはカイトだった。
カイトは剣を脇に構え、前方へと駆け出して俺との距離を詰めた。
(こいつ、思っていたよりもずっと速い!)
俺はそれに対し魔法で対抗しようとするが、予想を上回る速度にそれを諦め、上に飛んで逃げた。
「師匠が空を飛べるだなんて初めて知ったぜ!」
「お主に見せていたのはわしの力のほんの一部じゃ!」
俺は余裕そうな表情を浮かべるが、内心は焦りに焦っていた。
(こ、これは勝てない… 本当はもっと後に呼ぶだったが、予定を早めるしかないか…)
俺はこのままではカイトに負けてしまうことを察し、予定よりも早く召喚獣を呼んだ。
「GYAAAA!!!」
「おいおい、ありゃなんだ!」
全身を黒の鎧で覆ったドラゴンが飛来する。俺が呼んだ召喚獣だ。
「お主の実力は先程のやりとりで分かった! 好都合じゃ! カイト、あのドラゴンを倒してみせい!」
「えぇ! そんないきなり!」
俺からの唐突な指示に、カイトが驚いた顔をして俺の方を見る。それに対し、俺は鼻で笑って言う。
「フッ、なんじゃできんのか」
「チッ、やってやるよ!」
カイトは舌打ちをして、渋い顔しながらそれに応じた。
◼︎◼︎
結果的に言えば、カイトは召喚獣を一瞬にして倒してしまった。
この召喚獣は俺のとっておきであったのだが、カイトには造作もない相手であったらしい。
これは尚更作戦の有用性が増すというものだ。
「よくやったのじゃ、カイト」
俺は満面の笑みを浮かべながらカイトのそばへと寄り、こっそりと召喚獣に回復魔法をかけた。
———
次回カイト視点
TSのじゃロリ師匠は弟子を庇って死にたい ビューティフル佐々木 @mune1or1shimethu
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