最終話 貴方に繋がる始まりの音
記録庫の扉が開いた瞬間、
図書室の空気がすべて吸い込まれるように震えた。
しかし先ほどまで漂っていた不気味な圧は、
黒崎の心が戻ったことで静かに溶けてゆき――
重かった空気は、まるで霧が晴れるように薄くなっていく。
世界の奥底に眠っていた“本当の選択肢”、未来が、
今ようやく呼吸を取り戻したかのようだった。
あかりは胸に手を当て、小さくつぶやく。
(……ここが……“ママの残した最後のページ”……)
暗いはずの空間に、
白い紙片のような光がふわりと浮かび上がる。
その光はくるくる舞い、
やがて記録庫全体を満たす“物語の息吹”へと変わった。
悟の声が、優しくあかりの背中を押す。
「ここが“記録庫”。
結さんが残した物語、黒崎さんの願い、
そして――あかりさんの“未来”が重なる場所です」
黒崎はその光を見つめたまま、静かに目を伏せる。
「ずっと……怖かった。
結のいない世界で、俺が何を望んでいいのか分からなくて」
悟が柔らかく微笑む。
「でも、あなたは“手放した”。
あかりさんに救われたからです」
あかりは黒崎の手をそっと掴んだ。
(……あなたの痛みも、優しさも……ちゃんと見たよ)
黒崎は一瞬だけ困ったように微笑み、
その手をそっと返すように握り返して――ゆっくり離した。
「ありがとう。
ここから先は……君の世界だ」
その瞬間。
――ばさっ。
記録庫の奥から、一冊の本が落ちた。
古びた革表紙の本。
だが、その表紙には何も書かれていない。
“まっさらな物語”。
水城が息を呑む。
「……これは……」
悟がその本に触れた瞬間、
光が立ち上がり、悟の身体がゆっくりと透け始めた。
道都「悟……!」
寛「ちょっ、これ……マジでヤバいやつじゃん!!」
悟は二人に優しく微笑み、
最後にあかりへ視線を向ける。
「僕は、役目を終えたのです。
結さんの願いで生まれた“守護者”として。
あとは――あかりさん自身が、この物語を書き進める番です」
あかりの胸が、じんわりと熱くなる。
(……いなくなっちゃうの?
悟くん……)
悟は静かに首を振る。
「でも大丈夫。
僕は“ページの間”に残ります。
あなたが迷ったとき――必ず声が届くように。会いたくなったら、この本を開けばいつでも会えるから……だから、その時まで "またね" 」
光が散り、悟の身体は紙片のように空気へ溶けていく。
「さあ、あかりさん。
自分の物語を……“選ぶ”時だよ」
そう言い残し、悟は静かに消えた。
残されたのは、あかりの手の中の“白い本”。
黒崎がそっと言う。
「それは……君の未来だ。
まだ何も書かれていない。
誰と歩き、何を望み、どんな恋を紡ぐのか――
すべて君が選ぶんだ」
記録庫の空気がふわりと揺れ、
目を開けると、そこには“いつもの図書室”。
壊れていた時間が、ゆっくりと正しい流れへ戻っていく。
水城が微笑む。
「ここから先は、あなたの選択の物語。
道都君も、悟も、寛君も――
あなたの選ぶ未来によって表情が変わっていく、物語」
――選択。
――未来。
――誰かの手。
胸の奥で、夢の声がまたささやく。
――さあ、選べ。
――君は誰と紡ぐ物語を望む?
あかりは白い本をぎゅっと抱いた。
この本に書かれるのは、
もう“誰かの過去”ではなく――
“あなた自身の物語”。
黒崎が最後に優しく言う。
「結の娘……あかり。
どうか、自分の幸せを選んでくれ」
記録庫の扉が静かに閉じた。
――そして、物語はあなたの手に託された。
誰を選び、どんな恋をし、
どんな未来を描くのか。
それは“あなた”が書くページに宿る。
――ここから先は、ゲームの世界で、
あなたが選ぶたびに色を変える。
誰と歩くか、どんな恋を紡ぐか。
その未来は――あなたのひとしずくの選択で決まる。
――“あなた自身”があかりとして歩む物語が始まるのだ。
**だってこの世界の可能性は、一つではないのだから。**
―― 完 ――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます