8.寮のベッドで 〜道都の想い〜

道都はベッドの上で寝返りを打った。

机の上には魔術書が開かれたまま。

しかし目は一文字も追えていない。


(“返事は、義務が終わってからでいい”……なんて言っておいて)


胸の奥は、あかりの「好き」の響きでまだ熱かった。


(あんな顔で言われて……俺、よく平気なふりできたよな)


あかりの頬の赤さ。

震える声。

それでも勇気を振り絞って返してくれた「好き」。


思い出すたび胸が跳ねる。


(……正直、すぐにでも抱きしめたかった)


でも言わなかった。

触れなかった。

守護者としての使命が終わるまで、

あの子の心を揺らしすぎないように。


(……なのに)


頭をよぎるのは悟と寛のこと。


二人がどれほどあかりを想っているか知っている。

あの夜、寛が見せた本気の眼。

悟の静かな強さ。


(俺は、本当に……あの二人に勝てるのか?)


胸が苦しくなる。

でも同時に、揺るぎないものも確かにある。


(それでも……あかりが俺を見て「好き」って言ってくれたんだ)


あれは嘘じゃなかった。

流れなんかじゃなかった。


震える手をぎゅっと握る。


「……絶対、守る。

 義務が終わったら……あの子と、ちゃんと向き合う」ぼそりと呟く声は、ほんの少し震えていた。


それでも。


あの子を幸せにしたいと願う気持ちだけは、

誰にも負けていなかった。

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