不感症な爆乳ギャルの妃 玲奈(きさき れな)が、ぼっちのぼくに激重依存して「一生離さない」と宣誓するまでの100日間

@penosuke

「触んな」と罵る学校一の塩ギャルが、傷だらけのぼくを祈るように手当てするまでの7日間

1日目 圏外の僕に、女王が近づいた

 教室の最後列、窓際の隅で息を潜める。

 まるで自分が風景の一部であるかのように気配を消して、手元のラノベに視線を落とす。

 ラノベはいい。たった数百円で、人生すべてが手に入る。文字の連なりが、脳内で無限の物語を構築する。作り手の熱量が、紙を通してダイレクトに伝わってくる。これ以上のエンタメがあるだろうか?


 昼休みに堪能する物語は最高だ。そうに決まっている。

 クラスは陽キャグループを中心に、いくつかのカーストに分かれている。

 ぼくは、そのどれにも属さない、圏外だ。


「でさー、昨日の配信マジうけたわ」

「あ、それ見た!」


 楽しそうな会話が、まるで分厚いガラスを隔てた向こう側のように聞こえる。

 別に羨ましくなんかない。薄っぺらい会話より、物語のほうがよほど奥行きがある。二次元があればいい。……辛くなんかない。


 視線を、窓ガラスの外へ逃がした。

 中庭を横切る渡り廊下が見えた。

 ここからは遠い場所を、この世のモノとは思えないほど美しい女子が歩いていく。

 腰まで流れる、濡れたような黒髪。モデルみたいに完璧な横顔。まつげの長さがここからでも分かるぐらいだ。その肌は、まるで上質な陶器のように真っ白で。

 だ。学校一の有名人。今日も、可愛い。胸が痛い。


 ――そんな彼女と、ぼくは昨日、一緒になった。


 奇跡だった。とはいえ、ほんの少し、同じ時間を過ごしただけだ。

 そして今日は、こうしてガラス越しに眺めるだけの圏外に逆戻り。

 向こうは、きっともうぼくのことなんて忘れている。


 もしも、あんな人が毎日そばにいてくれたら、ぼくのモノクロの毎日も、何か変わるんだろうか。

 ……夢の見すぎだ。ラノベを読みすぎた。現実は非情ハードモードだって知ってるだろ。

 机に突っ伏す。しばらく目を閉じる。うるさくて落ち着かない。また起き上がって、ラノベに視線を戻そうとした、その時。


「あそこのぼっち、さっきから何ガンくれてんの? まじでうぜえ」


 ――最悪のタイミングで、視線が合った。

 違う。見ていない。たまたま顔を上げた先に、クラスカースト頂点のグループがいただけだ。声に出せない言い訳が、喉の奥で詰まる。


「うわキモ。こっち見てくんなよ」

「てかさ~、あの猿が息してんの、何なのって感じ。酸素の無駄じゃね?」


 下品な嘲笑が教室に響く。胃がキリキリと痛む。やめてくれ。


「おーい雑魚! 聞こえてんだろ! かかってこいよ、いっぺん死ぬか?」


 ぽふ、と頭にぶつかって、視界が白く煙る。

 頭からチョークの粉を浴びた。黒板消しが床に落ちる。教室が、爆笑に包まれた。


「ぶはっ! ダッセー!」


 追い打ちをかけるように、黒板消しを投げてきた張本人――クラスカーストの王の男子生徒が、ぼくの席まで近づいてくる。


「お前の読んでるそれ、タイトルなに? うわキモォ!!」


 ラノベをひったくられそうになり、必死で押さえる。


「いやいや盗まねーから、お前の汚い手垢がついたモン。てかこれが昼に読むやつ? 変態じゃん。将来犯罪者になるようなお前みたいな陰キャにはお似合いだな」


 嫌悪が、体の内側に溜まっていく。

 ここ最近は、見えないふりをされるだけだったのに。

 今日は、触れてくる。押してくる。入学当初のように。


「ちょっと~直哉くん、やめなよ~」


 取り巻きの女子が、クスクスと笑っている。止める気なんて、まったくない。


「てか変態陰キャ男子、ほんとキモい。社会のゴミ。消えろよ教室から」


 どうして、ここまで言われるのだろう。

 一学期の初めから、クラスに馴染めなかった。気づけばこうなった。

 どんなに辛くても通い続けて、二学期の今、ようやく静かになったと思ったのに。

 学校に来るの、やめようかな。




 その時だった。

 ガラッ!! と、乱暴に教室のドアが開く。さっきまでの喧騒が、水を打ったように一瞬で静まりかえった。

 空気が、変わる。


「……」


 開け放たれた前側の出入り口で、無表情に立っている。

 濡れ羽色の黒髪には、いっさいの枝毛も乱れもない。髪自体が完璧な芸術品のように、蛍光灯の光を反射している。

 モデルのように背が高く、瞳はパッチリと大きい。

 首筋も、鎖骨も、非現実的なまでの透明感を放つ。

 まさに美の暴力。圧倒的な存在感。


 きさき 玲奈れな


「……うっわ、マジ可愛い……」「ウチのクラスに何の用?」「おい! 声かけに行ってこいよ!」「オイ押すなって! やべーよ!」


 しんとしたクラスが、にわかに色めき立った。彼女は、そんな噂声など気にせず進む。

 その名は、普通なら、清楚の代名詞になるはずなのに。

 完璧な黒髪と陶器の肌だけを見れば、誰もがそう思うだろうに。

 だが、視線を少し下にずらせば、そこには現実ギャルがある。


 肩にかけられた、学校指定のスクールバッグと、ド派手なゼブラ柄のトートバッグ。

 手首にはジャラジャラと揺れるシルバーアクセ。髪の毛の内側には、深く鮮やかな藍色が覗く。壊滅的に着崩した制服。

 どれも校則違反待ったなし。

 清楚な素材と、派手な装飾のアンバランスさが、彼女の放つ美の暴力を、異質に際立たせていた。

 そして何より――男子生徒たちの視線が、肉感的なボディに突き刺さる。


「おっす、レナ! 今日もエロいね!」


 陽キャグループの、いわゆる一軍男子が、ニヤニヤしながら馴れ馴れしく肩に手を置こうとした、その瞬間。


「あ゛?」


 彼女の喉から、およそ女子とは思えないドスの効いた声が漏れた。

 氷点下の視線が、男子生徒を射抜く。


「触んな、猿が」

「ひっ……!?」


 男子生徒はビクッと手を引っ込め、顔を引きつらせる。教室の空気が凍った。

 いきなり触ろうとする方が悪い。そうに決まっている。

 でも、触りたい気持ちは痛いほどわかる。だってあれは反則だ。

 一歩ごとに、その質量が重力に抗う。

 まるで見せつけているかのように、とぷん、だぷっ……、と、まるで生き物のようにうねって、形を変える。


 限界を超えて張った制服のシャツが、その下にある二つの肉塊の輪郭を、これでもかとくっきり描き出す。

 胸元が思い切りはだけているのに、なおも弾けそうなシャツのボタン。ボタン同士の隙間もパッツパツ。ぎゅうぎゅうに圧迫されて、内側から溢れ出すのは、とろりと柔らかすぎる、ながぁ……い谷間。

 雪のような白い肌に、食い込むように走る、黒いレース。

 顔よりも大きなブラジャーを、恥ずかしげもなく胸元からはみ出させている。


 あれはもう、女子高生が持っていていい『モノ』のサイズじゃない。

 大人でも到底、あんなに大きくはない。

 スカートは股下数センチ。もはや下着を見せるために履いているとしか思えない、攻めすぎた丈。

 遠くから見ていた時は、あえて遮断していた、彼女の生々しさから、もう目を背けられない。

 規格外の爆乳を携えた白ギャルは、ぼくの理性を破壊するには、十分すぎる。


「……お前らのためにこの格好してないから」


 彼女は「チッ」と舌打ちした。周囲の男子生徒をゴミでも見るような目で睨む最中。

 その進路を遮るように、カースト頂点の男、直哉がニヤニヤしながら駆け寄った。


「よぉ、レナ。そんな怖い顔すんなって。俺らと遊ぼうぜ」

「群れなきゃ何もできない雑魚」

「なっ……!?」


 直哉の顔が、驚愕と屈辱に真っ赤に染まっていく。

 レナは、心底どうでもいい物体を見る目で、直哉を見下した。


「……アタシ、オタクに用があるんだけど」


 そして何事もなかったかのように直哉を無視して、迂回する。

 ぼくの席に向かって、歩いてきた。


「おっすー、オタク。来てやったぞ。今日もしけたツラしてんな」


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