第6話 研究室にて

 割れたガラスの上を歩き、その忌々しい空間から抜け出す。しかしそのまた先も空間。あの空間に引き続き、文字がギリギリ読める程度の弱々しい光でなんとかしないといけないらしい。

 1ヶ月ぶりに違う床の上に立つ。目を凝らして正面を見ると幅3m、高さ2m強、奥行きはそれほどない四角い凹みが見える。


 「ドアだ。」


 誰がなんと言おうと、ドア。足元のコケやらツタやらに足を取られないように近づく。ドアノブや取っ手のようなものはなく、自動ドアのように見えた。左手を前に出して自動ドアに向かう。俺一人だとはいえ、動かなくてそのままビタン!という醜態は記憶に残るから。

 やっぱり動かなかった。俺の左手と脳に感謝。ただ、どうやら鍵がかかっているわけでもないらしい。ノート1冊分の厚み程度だけ既に動いていて、あちら側がかすかに見える。ここよりかはマシな光で満たされた廊下のようだ。


 「ほんとに、まるで脱出ゲームみたいだな…」


 さっさと出口を見つけて帰りたかったが、どうも指がその隙間に入らない。とりあえず、今いる部屋でバールかそれに似た何かがを見つけるべく、探索することにした。もしかしたら、俺が今知りたいことも知れくかも知れないから。

 そうと決まればとふり返り、並んでいる白のロングテーブル、怪しげな機械、PC、そしてその他諸々。それらの中身とバールの代わりとなるものを探す。当然ながら、ほとんどのテーブルとPCはからっぽ。怪しげな機械はおびただしいほどのボタンやモニターなどたっぷりと有しており、「素人が禄に触るでない!」といっているようだった。そして俺がいるこの部屋はさっきまでいた空間の二回り以上は広く、もちろんその半分はあれだが、それにしても財力があるなと思った。

 最後の一つとなってしまった白のロングテーブルの引き出しを開けると、俺が抱えていた疑問符はいくつか消えた。


 「これは…文書か。でもなんでこれだけ…」


 そう言いながらも怪しすぎるその中身を見る。その中身はいかにもその当人にしか読めない文字で色々綴られており、読むことができるものだけ読んだ。

 「えーっと?『ゴーグル付き脳波検知ヘルメット。対象者に映像を再生させ、その対象者が見ている景色の情報を検知するヘルメット。対象者に疑念が生じないようにするため、ヘルメット右側面に液体麻薬のカードリッジを500ml付属。首元の針で1.50ml/h注入。』おい待て麻薬だと!?」麻薬。普通はその時点で即刻アウト。ここも、俺も。この研究所は麻薬の所持で無き物とされて俺はそのままにされていたのか?でも俺をおいていく理由がわからないし、それはそれでおかしい。「『なお、この麻薬、コンパリンは外皮接触での感触と痛覚の遮断が主な効果であり、一般的な麻薬の副作用である依存性は皆無。麻酔としても用いることができる。しかし、副作用に無気力が確認された。そして過剰摂取では幻覚が確認された。』こいつのせいか。あのときやる気がなかったのは。というか、つまり、麻酔なのか。麻薬じゃなくて。いや、ほぼ麻薬だけれども。」捕まる心配はまだ必要そうだ。資料はまだあと2枚残っている。「『場面構築床』ああ、あの床のことか。一番気になってた。『対象者の脳波を検知し、対象が見ている景色を再現する床。』ん〜〜〜?」何がなんだかわからない。まさかの、これしか特に書かれていない。


「やってみる……か?」


 さっきようやく出たというのにまた戻ってきた。ヘルメットを拾い、ゴーグルの割れた破片に気をつけて被ってみる。何十回も投げてガラスを割ったというのに、ヘルメットはまだ原型を残していた。問題のゴーグルは右部分がもう欠け落ちているが…点いた。左端だけ。左端に見えるのは食卓だ。その見えた食卓を右目で見てみる。

 なんということだろうか。あの床が下から伸びて、テーブルの形をしている。細かいところはその床の黒鉛のような棒から枝分かれして形を成している。そして視点を変えて壁を見る。壁は天井までびっしりと伸びていた。なんという技術だ。そして俺はズボンのポケットに膨らみがあるのを感じた。スマホだ。確かに左目ではスマホだったが、右目ではただの黒い長方形だった。これまた面白い技術だ。


 「ん?この技術どこかで…いや、気のせいだろう。そうしておこう。」


 いくつかの疑問を解消したところで面白い空間から物足りなそうに降りる。そして掃除用具入れからバール発見した。なぜ掃除用具入れにバールが入っているのかわからなかったがとりあえずそれでドアを開けることにした。ドア絵を開けてすぐ、陽光のようなさきほどまでよりも、もっとマシな光が目に入ってきた。繁茂したツタやらコケやらが出迎える。いや、拒んでいるのか?わからないが、それぐらいに生えていた。それは壁も伝って。


 「まあ、第2ステージクリアってとこか。ここからは出口を見つけるフェーズか。」


 とりあえず、今は出口の存在を知りたいので他の部屋には目もくれず、階段と出口らしいドアを見つけることに専念した。しかし廊下は光の有無が激しく、蛍光灯が点いているいないがランダムで、ひどいところは蛍光灯の一つもついていない廊下があった。

 歩いて15分といったところか、階段を降りて既に2回降りてまあそろそろ出口だろうといったところで何かしらを感じた。悪い気配、しかしゴーストではない生きている人間っぽい視線のようなもの。1度後ろを振り向き、前を向く。何もいないことを確認した時、


 「ようやく目を覚ましたか、T-035。いや、シリル・バヤール。」


 ご丁寧にも被検体番号であろう数字の後に名前を言われた。しかもフルネーム。正面か。とても暗い、光が指している境界の向こう側から声がした。どうやら、男性。


 「おはよう。私の名前はランド。WTC研究員、時間部門代表。」


 やはり、WTCだったか。あんな技術、この変態技術者にしか作れないだろうとは思っていたが。


 「1,980,795時間と15分34秒の夢からよく自力で目覚めた。ここに賞賛を送る。」


 .........正気じゃない数字の羅列が聞こえた。男はその、隈ができた病弱そうな細い目を微かににやけさせ、独特な奇妙さを醸し出している。




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お世話になっております。NaIVIak0です。

またしても、詐欺をして1週間ぶりの投稿となってしまいました。ごめんなさい。日常でメンタル的にキツくて……まあ、言い訳はやめておきます。あとごめんなさい主人公あんま喋ってませんね。

やっと新キャラという訳ですが正直、イケメンにしようかどうか迷ってます。社畜でいいですよね。そうですよねだって代表なんですもん。

そうだ、セリフと語りを分かりやすいように改行で区切ってみました。見やすいですか?どうですかね。今度から心がけます。

あとそうですね。私の書く物語では「......」「……」の区別がしっかりあります。あと他にも。まあ、色々と。そのハズ……です。

次回は長すぎる時間の謎も解けるでしょう。そして主人公、ちゃんと喋ります。今度こそ、本当です。

では、今回はここらへんで、この作品が良かったと思った方々、フォロー、レビュー等のご支援お持ちしております。次回もよろしくお願いいたします。

次回は11/30を予定してます。


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