第5話 モルモットは自由を求める
というか、さっきから首が痛い。長時間ヘルメット着用の疲れかもしれないが、そういう、根本からの痛みじゃなくて、本当に首の中間辺りの、外側。頸動脈とかそこら辺の……待って頸動脈?
手のひらをさっと優しく当てる。
濡れてる。
「なっ…………なあああああああぁぁぁぁっっっっっ!?!?!?」
思わず声が出る。なんじゃこりゃあとも言えずにこんなリアクションになってしまった。何を思ったのか、急いで蛍光灯の下へ。
緑色だ。
うん。緑色。
緑色?
「緑色ぉ!?」
またしても声が出る。偽物を見させられている間に俺はサイボーグにでもなってしまったのかと思ってしまった。なんてことはなかった。慌てふためいてあちらこちらへ目を忙しなく向けていると、ふと、ヘルメットが見えた。ヘルメットからはその緑色が付着していた。そしてちょっとした針が、緑色を垂らしながらぶら下がっていた。さっき見たときは気づかなかった。なぜ気づかなかったのかはわからないが、多分、光のせいだろう。暗くて何も見えなかったから。今になって見つかってもおかしくはないか。
再び、ヘルメットを見る。今度は入念に。何かあるかもしれないから。
何度見ても、その高性能さには圧倒される。新しく発見したのは3つ。
1.ヘルメット裏の金属板
多分、導線による情報制御と感覚の制御。多分頭をぶつけたときとかにかんかくをごまかすためだろう。
2.ヘルメット内部のゲージ
緑色の液体がこびりついたガラスのゲージが入っていた。カードリッジ式。多分、あの緑色の液体が入っていたものだろう。
3.ヘルメットの耐久性
とんでもなく堅い。タングステンのような硬さ(触ったことないけど)、こんな堅くてなんで故障したのかと思ったらふつーに導線の接合部らへんの少し弱いとこにあったっていたっぽい。
右手がピリピリする、というかなんか感覚が薄い。左手の指で平を押してみるが、ブヨブヨしたような感触。
「手は動くけど、感触はおかしい……これは…麻酔?」
緑の液体に触れた部位周辺がそんな感じがする。
「触れてこれなら注射されてた俺って結構まずいんじゃ……」
少し、良からぬことを考えてしまった。
何分か、色々考えてみた。俺のやるべきことについて。そう、ここからの脱出方法についてだ。そこで、一回確認のためにこの空間の端に行ってみる。壁に触れる。洗練されたなめらかな感触、息を吐くと水滴がつき、それを指の腹で擦ると、食器洗剤CM顔負けの、お手本のようなキュッキュッという音を出した。予想通り、ガラスだ。こんな空間にいるなら実験対象か何かしらの観察対象になっている可能性が高いので、俺はそう考えていた。そして見た感じ、これは遮光ガラス。こちら側からはあちら側は見れなくなっている。しかも遮光ガラスとはいい、少しあちら側が透けるのでこのガラスは極厚の中の極厚。それを素手で破壊しようなんて愚行の極み。そう、素手なら。
俺はヘルメットを使うことにした。このヘルメット、とんでもない堅さであることは既知。ただ、俺は導線の部分に目を向けた。このヘルメットの導線、実はめちゃくちゃ伸びる。天井に向けて投げ上げたら生えていた部分からどんどん伸びていって、普通に天井にヘルメットが当たった。この空間の天井の高さは、約8m、十分なほどに伸びる。そしてこの導線、装着者が導線で絡まらないように導線の生えている部分の床が移動して装着者の背後についていくことができる機能がある。あとはこれを俺が、ハンマー投げの要領で壁にぶつけて穴を開けるだけ。実に、破壊的。しかし、我ながら最高の作戦。別に俺は運動ができるわけでもないが、投げてりゃいつか当たるし、ヘルメットも堅いからなんとかなるでしょ。
そんなこんなで記念すべき1投目。まさかの大外れ。部屋の四角の対角線の方向へ飛んでいった。
なかなか最初から景気が悪いが、2投目。ヒット。びくともしない。それでもヘルメットは壊れる気配を出さないでいる。
そこから3,4,5,6投目。どれも当たるが、少し亀裂が入っただけ。あともう少しそうに見えるが、多分、表面でしか亀裂は入っていないだろう。ただ、コツは掴んできた。
続いて7~15投目。2投外れ、7投ヒット。新しい亀裂が2つ入る。今、3つの亀裂が入っていて、それも3つとも一点で交わっている。しかしここに来てご自慢の、ブラック企業で養われたスタミナが切れてきた。ヘルメットは余裕そうに床にへばりつく俺を見る。
少し休憩して次からは狙いを定める。あの3つの亀裂が交わった一点を狙う。
このあとも何回も投げた。2,3回はその一点に命中し、ガラスの少しばかりの破片が床に落ちてきれいな旋律で周囲を彩った。だがそろそろ限界。命中率も低く、パワーもない。少しの希望を感じるために一度、ガラスに顔を近づけてみる。かすかに空気の出入りを感じる。ガラスも、限界のようだ。
記念すべき40投目。少し頼りのないスローだった。しかし、決めるべき一点に当たった。その面のガラスがきれいに全部割れて滝のような細切れの光がか弱い蛍光灯に照らされて輝き、バラバラのタイミングで鳴らしたウィンドチャイムのような音が鳴り響く。俺はなんとか逃げていたので切り傷などはつくらなかった。大学試験に受かったときぐらいの雄叫びも共に響く。今度はこの空間の外でも響いたので実感した。壁があった向こう側はさっきまでと同じぐらいの明るさしかなく、人はいない。
俺はやっとのことで人間になった。ただ、この空間を抜け出せば自由と思っていた時点で、俺はまだモルモットだった。虫の息の蛍光灯が示す先の景色は殺伐とした雰囲気の研究所の一室だった。
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お世話になっております。NaIVIak0です。
えーっと、事情説明しますね。
最近ずっと「連続投稿します!連続投稿します!」と言う割にはそうでなくて2,3日ぐらい待つことになってしまって詐欺の連発をしてしまってました。
いや、ほんとに申し訳なくて、もう読者の皆様には会わせる顔がありません。なので顔を消します。(固い決意)
顔消すというのは冗談として、ほんとに申し訳なかったです。本当にごめんなさい。
まあ、言い訳みたいなもの近況ノートに書いておきます。
次回は、主人公、めちゃくちゃ喋ります。
ではここらへんで終わりにして、この作品が良かったと思った方々、フォロー、レビュー等のご支援お持ちしております。次回もよろしくお願いいたします。
次回は11/14を予定してます。
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