第2話 罰ゲームが過ぎる
ゴブリンの朝は早い。
というより、夜が怖すぎて眠れないから、気づけば朝になっているだけだ。
ちなみに、俺たちは森の奥にある洞穴を住処にしている。
まあとにかく湿っぽくて臭い。
寝返りを打てば隣のゴブリンの肘が顔に刺さるし、
目の前には汚物のついてそうな尻はあるしで快適さのかけらもない。
だが、屋根があるだけマシだ。
外で寝れば、狼か大蛇の牙。あるいは人間の剣に貫かれて目覚めることになる。
その日も、俺たちは食料を探しに森へ出た。
木の実を拾い、ネズミを追いかけ、時には虫を口にする。
ゴブリンの食卓は質素というより、もはや罰ゲームだ。
だが、腹が減ればご馳走に見えないこともない。
「おい、こっちに大きな実が落ちてるぞ!」
仲間の一匹が嬉しそうに叫んだ。
俺たちは群がり、奪い合うようにかじりつく。
酸っぱい。渋い。だが、腹は膨れる。
そのときだった。
「見つけたぞ、ゴブリンども!」
森の奥から声が響いた。
人間だ。しかも複数。鎧の擦れる音、剣の抜かれる音。
冒険者の一団だった。
俺たちは一斉に逃げ出したが、やはりというか、
また足の遅い一匹がすぐに追いつかれてしまった。
「やめろ!俺は何もしてない!」
必死の叫び。
だが、人間の剣は容赦なく振り下ろされた。
血が飛び散り、仲間の体が地面に崩れ落ちる。
……何もしていないのに?
そんなことは関係ない。
人間にとってゴブリンは「倒すべき敵」であり、「経験値」であり、
「金になる素材」だ。善良だろうが悪党だろうが、区別などない。
俺は木陰に身を潜めながら、歯を食いしばった。
「これと……共存だと?逆に笑えてくるな」
冒険者たちも楽しそうに笑っていた。
「やっぱりゴブリン狩りは楽だな!」
「こいつら、弱いくせに数だけは多いからな」
「村に持ち帰れば、子供たちも喜ぶぞ」
まるで虫を潰すような感覚で、俺たちを殺していく。
さらに二匹、三匹と斬られた。
逃げ惑う仲間の悲鳴が森に響く。俺は必死に頭を回転させた。
――逃げるだけでは全滅する。
「こっちだ!」
俺は数匹を引き連れ、森の奥へ走った。
途中で、わざと枝を折り、足跡も残す。
人間たちが追ってくるのを確認し、俺は急斜面へと誘導した。
案の定、冒険者の一人が足を滑らせ、転げ落ちた。
鎧の音がガラガラと響き、下で岩に頭を打ちつけて動かなくなる。
「やった……!」
俺の胸に小さな勝利の火が灯った。
だが、すぐに別の仲間が捕まり、喉を裂かれた。
勝利と敗北が交互に押し寄せる。
生き残るためには、知恵を絞るしかない。
結局、その日、十匹いた仲間のうち半分が殺された。
俺は生き延びたが、頭の奥に焼き付いたのは「理不尽」という言葉だった。
夜、洞穴に戻った俺は、焚き火の前で呟いた。
「これが現実だ。善だろうが悪だろうが関係ない。俺たちは“ゴブリン”というだけで殺される」
仲間たちは黙っていた。
泣く者もいた。怒る者もいた。だが、誰も反抗しようとはしない。
俺は拳を握りしめた。
「だから俺は強くなって国を作る。人間と魔物が共存?そんな甘い考えは俺がぶち壊す。俺が作るのは、血と憎悪に満ち、魔物も人も平等に殺しあえる国だ!」
その言葉に、仲間たちは震えた。
恐怖か、期待か、自分でもわかってなさそうだ。
だが、確かにやつらの目に光が宿った。
理不尽な虐殺の夜、俺は改めて誓った。
――俺は必ず、この世界を修羅の楽園にしてみせる。
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