春曙三世抄 第三部未来世「安倍晴明は電脳都市平安京の夢を見るか」
めぐみ
第1話 Why did she write?
山々は平安の都を眺めながら微睡んで横たわったまま。暁、東雲と時を経るに連れて、次はここにいるぞとばかりに空がじわじわと眠りから目を醒ます。乾坤が分かたれていく。陰と陽に、天と地に世界が分かれて、また新しい一日が始まる。何度でも。望んでも望まなくても。世界は、毎日生まれていく。あの方がいらっしゃってもいらっしゃらなくても。
黒から
あたしがいつか見たあけぼのを、日々生まれる世界のはじまりを、
空の色に
その後で、あたしが仲間内でハブになって屋敷に引きこもっていた頃、メッセージが届いた。
「あなたと見た日の朝ぼらけがいつも思い出されるの。どうしてそんなふうに私を置いていくの。このまま私を忘れていくの。私はあの日の朝ぼらけもあなたとの時間もずっと忘れられないのに」
どうしていつもそんなふうにお一人で背負ってしまわれるの。私を呼び戻したことでグチグチ不満をいう輩だっているだろうに。どうしてご自分の我儘でご自分だけの責任みたいな顔をなさるんですか。お悩みの種があたしのことなら、あたしだってその半分を背負っていたいです。あなたがその後背負ったものを、背負わざるを得なかったものを、あたしにも背負わせてほしいです。
あたしはあたしのできること全てを、あたしの身も心も命も捧げる覚悟であの方の元に戻った。そして、あの方の見たものを見て、あの方があたしたちを連れて行こうとしていた先を見つめて、あの方の見たかったものを他の人に一生をかけて見せることにした。
だから、あたしはいつもあの朝ぼらけを思い浮かべなから
どんな素晴らしい楽器の演奏をすれば、どんな強い天つ風が吹けば、あの天女のような方をこの地に引き留めておけたのだろう。「中なる少女」にできたのだろう。天に還る少女に縋るように手を伸ばす。その先に紫がかって細くたなびく雲がある。それが、あたしの
あたしの視聴者はどちらかというと、あたしになりたい人が多い。たくさんの人が、カラーグラスを掛けるみたいに自分の日常があたしの感覚に置き換えられていくのを実感したくて、あたしの配信に集まってくる。
新しく特別なことをしなくても、特別な自分にならなくても、自分の世界の色が変わっていくのを体験したい人たち。世界の色があたしの見ている色に変わったら、特別な方のそばにいたあたしみたいに、自分にも特別なところがあるんじゃないかと思いたい人が、あたしの配信を観にやってくる。それであたしはトップランカー
だからあたしは、あたしみたいになりたいって思うように、あたしの日常の配信をする。そしてちょっとだけ、ほんのちょっとずつだけあたしの特別な方をすべり込ませる。宝箱をちょっと開けて、そこに宝物が確かにあるのをちらっと見たらすぐ蓋を閉める。そしてまたちょっとだけ蓋を開けて覗き込む。ちょっとだけ、が少しずつ長くなっていって、あの方とあたしの過ごした時間で、夢のように輝く日々で配信を終わらせる。
「あけぼのの人も、つとめての人も、夕暮れの人も、夜の人も、みんなあたしの
つまる所、あたしもギバーの顔をしたテイカーなのだ。
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