第2話 転生➁

不幸な手違いによって死んでしまった大吉。

責任を感じた女神が異世界転生を勧めるも、彼は容易に首を縦に振らなかった。

こうして──いかに大吉が満足する転生を果たせるか、死人(魂)と女神による知恵絞りの話し合いが始まった。


「よし! そんじゃあ、べっぴんさんの“シマ”について詳しく聞かせてくれや」


大吉はどっかと地面に腰を下ろし、サッと地面を払って女神ノルンに座るよう促す。

女神を地べたに座らせるなど、普通の人間には恐れ多くてできない所業だが、大吉は気にしない。

むしろ、地面を払ってやっただけでも 「レデーファースト」 を発揮したつもりらしい。


女神ノルンは一瞬ためらうも、おずおずと腰を下ろした。


「では……私の“シマ”について説明いたしますね」


彼女は、早くも大吉のペースに巻き込まれたのか、大吉の言葉に倣って話し始めた。


彼女が管理する世界は以下の4つ、大吉がいた世界と合わせて合計で5つだ。



『女神ノルンの”シマ”(管轄世界)』


1.魔物が跋扈する弱肉強食の世界

 (魔法・精霊・エルフ・獣人など多種族が存在)

2.高度な科学文明で惑星間戦争が続く世界

3.単細胞生物が支配する世界

4.原始人の世界(言語すら曖昧)



説明が続くにつれ──大吉は舟をこぎはじめた。


「……あの、大吉さん? 今の説明、理解されていますか?」


不安げに問いかける女神。

彼女は懇切丁寧に説明したつもりだが、途中から大吉が居眠りをはじめたため、慌てて声をかけたのだ。


「わかったも何も……話が長ぇんだよ。おかげで死んだ爺さんが夢に出てきてなぁ。“とうとうわしにもお迎えが来たか……”ってヒヤッとしたぜ。

まぁ実際もうお迎えされてるんだがな! カッカッカ! おい、ここは笑うところだぞ!」


「は、はい。オホホホ……。ところで内容は……?」


「耳だけはちゃんと聞いとる。打ち合わせのときもいつもこんな感じだったからな。

弱肉強食、ワクワク戦争、単細胞、原始人……だろ?

しかしお前さん……ロクなシマ持ってねぇな。選ぶ以前の問題じゃねーか?」


「そ、そんなひどい言い方……」


大吉の無神経な発言に、またもや涙目になる女神。

気に病んでいた事実を指摘され、意気消沈する。


「わ、悪ぃ悪ぃ。思ったことがそのまま口に出ちまうんだ。そんなにめそめそしてたら、せっかくのべっぴんさんが台無しだぞ」


「……褒めれば何とかなると思って! ひどいこと言うと“めっ”ですからね!!」


「はいはい」


「確かに少し問題のある世界ばかりですけど……それでも良い所はあるんですよ?

ただ、大吉さんが物作りをするとなると……惑星間戦争や単細胞世界や文明前の世界では、さすがに適しませんよね」


「まぁそういうこった。となると残る選択肢は──弱肉強食一択ってことになるな。 選ぶ手間が省けて助かったぜ」


「選ぶ手間が省けてって……。どうせロクなシマはありませんよ~。実質選択肢ゼロですよ~」


「拗ねるな拗ねるな。弱肉強食? 悪かねぇ。現場で鍛えたこの頑丈な肉体なら怖かねぇさ」


「ですから! 大吉さんの肉体は火葬されて消滅してるんです!!

いい加減聞き分けてください!」


「いや、聞き分けねぇ。──お前さん、神様なんだろ?

ならクローンぐれぇ作れんだろ。

髪の毛でも歯でも、何か残ってんだろうから、遺伝子情報を読み取って──わしの身体を複製すりゃ万事解決だ。

まさか人間にできて神にできねぇなんて言わねぇよな?」


「…………」


「だんまりか? できるんだろ? できるって言え!」


「や……やってやれないことは……ないですね。ああ……クローンという手が……ありましたね……」


「そうこなくっちゃ! よし、作れい! ワシのクローン!」


こうして大吉の提案は採用され、生前の大吉にそっくりなクローンに魂を戻すことで

“転生”ならぬ 転・移 が決まった。


しかし──。


強大な魔物が跋扈する世界に、ただの人間のクローンを放り込んでもどれほど生き残れることか。

そのため、女神は大吉の遺伝子情報を元に 大幅な改造 を施し、ステータスをいじり倒し、強力なスキルを付与した”大吉複製体(改)” を作り上げた。



交渉が終わるころ、女神ノルンは膝から崩れ落ちる。

大吉の無理難題に精も根も尽き果てたのだろう。


結果──、大吉の強いこだわりを取り入れ、肉体を若返らせつつも

「老年並みの技術と経験」をそのまま搭載するという、妙にちぐはぐな存在が誕生することになる。


──ひょんなことから異世界へ移ることになった、生粋の職人・大吉。

破天荒な彼が、どんな騒動を巻き起こすのか。

涙あり、笑いありの物語が、今ここに始まる。




------------------------------------------------------------------------------------------------


お読みいただきありがとうございます。

応援やリアクションを頂けるととても励みになります。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る